研究実績の概要 |
早期前立腺癌が発見される件数が急増しているが、治療法の選択基準は明確になっていない。その理由は悪性度や治療後の再発率あるいは治療効果を正確に反映するバイオマーカーが存在しないからである。私たちは前立腺癌の発癌、悪性化、去勢抵抗性を反映する前立腺癌細胞表面の糖鎖構造やその合成に関わる糖転移酵素など、前立腺癌診断、悪性度評価に有用な糖鎖性分子を同定してきた。本研究では、Cell free DNA (cfDNA)やCirculating tumor Cell (CTC)における糖転移酵素や糖鎖構造を定量検出する新規Liquid biopsy 法の確立とその手法が前立腺癌の悪性度評価あるいは治療効果のサロゲートマーカーとなり得るか検証する。平成30年度は、健常人あるいは、種々の前立腺癌患者の末梢血由来cfDNAからdroplet digital PCR により、I 抗原O-glycan の合成に関連するGCNT2 糖転移酵素の発現を検出可能かどうか検証し,cfDNA中のGCNT2糖転移酵素遺伝子の発現は検出可能であることを確認した。共焦点イメージサイトメーターでのCTC検出は困難であり、その確立には至らなかった。令和元年度以降は、cfDNA中のB4GALNT4やGCNT2糖転移酵素遺伝子の発現を臨床検体で検討した。転移性ホルモン感受性前立腺癌あるいは、去勢抵抗性前立腺癌患者の定期採血検体由来cfDNA の糖転移酵素コピー数、cfDNA濃度、cfDNA長をモニタリングした結果、cfDNA中の3種類糖転移酵素(GCNT1,GCNT2およびB4GALNT4)の発現は、前立腺癌の診断や悪性度評価に関して、有意差を認めず有用なバイオマーカーとならなかったが、cfDNA中のB4GALNT4遺伝子の発現のみ、CRPC症例の予後予測、治療反応性を反映するマーカーとなる可能性が示唆された。
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