研究実績の概要 |
まず前立腺癌のマスター転写因子であるARと、そのパイオニア転写因子であるFOXA1の支配領域の同定、ならびに近傍エピゲノム情報の統合解析を行った。具体的には、前立腺癌細胞株LNCaPに対して、テストステロン刺激前後でAR, FOXA1, H3K4me1, H3K4me3, H3K27acのChIP-seqを行った。AR, FOXA1は共通のエンハンサー領域に結合し、テストステロン刺激後に活性化ヒストン修飾H3K27acのシグナルが顕著に上昇しており、RNA-seqにて近傍の遺伝子発現変動を観察したところ、有意な発現上昇を認めた。 上記のエピゲノム変化、トランスクリプトーム変化の鍵となる標的候補として、H3K27acをはじめとするアセチル化ヒストンを読み取るBET蛋白の代表であるBRD4に着目した。BRD4のChIP-seqから、テストステロン刺激後新たにBRD4が結合する領域の61.9%はエンハンサー領域であり、その大部分がAR, FOXA1と同一領域であった。BRD4をshRNAによるKD、あるいはBET阻害剤JQ1を用いて薬剤阻害すると、AR, FOXA1, BRD4の共結合領域近傍の遺伝子発現は有意に抑制され、その中にはKLK3, TMPRSS2など既知のAR標的遺伝子群が含まれていた。 次に、このAR, FOXA1, BRD4を主体としたエンハンサー制御機構が去勢抵抗性前立腺癌 (CRPC) においても存在するかを確認するため、LNCaP派生CRPCモデルであるLNCaP95細胞を用いて同様の解析を行った。興味深いことに、LNCaPと同様の制御機構を認めた一方で、shRNAあるいはJQ1によるBRD4阻害で得られる細胞増殖抑制効果は、LNCaP95ではLNCaPに比し弱いものであった。この差異は去勢抵抗性獲得の分子機序に深く関わると考え、その主因子同定に進んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LNCaP, LNCaP95の2種類の細胞株を用いることで、アンドロゲン応答性前立腺癌と去勢抵抗性前立腺癌それぞれにおけるAR, FOXA1を主体としたエピゲノム変化を観察した。その中でARにより引き起こされる変化のパートナー因子としてBRD4を確認し、同標的阻害による機能解析結果を得ている。その結果から、興味深いことに、LNCaP95ではLNCaPと比しAR/BRD4から独立した生存機構を得ていることが示唆された。このAR/BRD4非依存的な治療抵抗性の分子機構の主因子については、他のヒストン修飾に着目した解析から既に候補を同定しており、その機能解析へと進んでいる。
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