研究実績の概要 |
前立腺癌のマスター転写因子であるAR、そのパイオニア転写因子であるFOXA1の支配領域ならびに近傍エピゲノム情報の統合解析を行った。 前年度までに、AR, FOXA1, BRD4を主体としたエンハンサー制御機構が、去勢感受性モデル前立腺癌細胞株LNCaPと去勢抵抗性前立腺癌 (CRPC) モデル細胞株LNCaP95において高い類似性がある一方で、shRNAあるいはJQ1によるBRD4阻害で得られる細胞増殖抑制効果に顕著な差異があることを同定した。この差異はCRPC獲得の分子機序に深く関わると考えられた。 エンハンサーの集簇から定義されるスーパーエンハンサーという概念が近年提唱され、種々の癌において癌遺伝子制御や腫瘍不均一性などと関係することが多数報告されている。H3K27acのChIPシグナルからスーパーエンハンサーをLNCaP, LNCaP95ともに算出し、AR, FOXA1, BRD4が制御するエンハンサー領域との比較検討を行った。興味深いことに、LNCaPではスーパーエンハンサーの約60%がARの制御領域と一致した一方で、LNCaP95においてはその一致率はわずか25%程に低下しており、AR非依存的なスーパーエンハンサー制御の存在が示唆された。 公共データベースの臨床検体を用いたトランスクリプトーム解析においても同様の傾向が認められ、AR非依存的スーパーエンハンサーの近傍には重要な癌遺伝子群が有意に濃縮した。CRPCにおける治療抵抗性獲得機序に深く関わり、かつ治療標的となり得る分子機構と考えられ、AR非依存的な制御機構の根幹をなす転写因子とその下流標的の同定に進んでいる。
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