昨年度の845例の尿路HPV感染のスクリーニングにおいて、in situ hybridizationでHPV-DNAの感染細胞を特定することを試みたが、抗原の不活化の過程で細胞が剥がれてしまい研究期間内には実施できなかった。そこで本年度は、HPV感染部位の特定を推定するため下記の調査実施した。 1)尿路上皮癌を対象とし、それぞれの患者から採取した膀胱洗浄尿135検体および自然尿64検体のHPV検出率を比較し、HPV検出率はそれぞれ5.2%(7例)、14.1%(9検体)であった。同一患者から膀胱洗浄尿および自然尿をともに採取した症例のうち、両者ともにHPVが検出された症例は1例のみ(HPV16陽性)であり、膀胱洗浄尿でHPVが検出された症例におけるHPV感染部位は膀胱、自然尿のみでHPVが検出された症例は尿道感染であると推定した。 2)次に男性不妊患者63例を対象とし、自然尿におけるHPV検出率を調査した。HPV検出率は4.7%(3例)であった。また、chlamydia、mycoplasma属、ureaplasma属の感染率も調査し、精液所見との関連性についても検討を行ったところ、ureaplasma属の検出症例は有意に精液所見が悪い(精液量減少)ことが分かった。 3)婦人科疾患で手術した女性24例の尿検体(自然尿および導尿の2種類採取)におけるHPV検出率は33.3%(8例)であった一方で、導尿検体ではわずか1例(4.2%)であった。
以上から、男性の尿路にもHPV感染が生じていることが推定された。尿路の感染部位として尿道だけでなく、膀胱も考えられた。特に尿路上皮癌患者におけるHPV検出率が高く、今後は尿路上皮癌(特に膀胱癌)とHPV感染との関連性に関する検討が望まれる。また、尿路HPV感染率に男女差は認めなかった。
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