研究課題/領域番号 |
18K16728
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
山内 寛喜 福井大学, 学術研究院医学系部門, 特別研究員 (40464086)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 神経可塑性 / 脊髄損傷 / 神経因性膀胱 / 排尿筋括約筋協調不全 / グルタミン酸 / NMDA |
研究実績の概要 |
急速な高齢化に伴う脊髄疾患の増加は、脊髄障害由来の下部尿路機能障害(Lower Urinary Tract Dysfunction, LUTD)を増加させる。このLUTDは膀胱排尿筋と尿道括約筋の協調的な作用を喪失させ難治性排尿障害を生じ、難治で、患者の生活の質を低下させることが多い。脊髄の完全損傷の場合に排尿反射は仙髄反射弓により行われる。脳幹部で制御された排尿筋と括約筋の協調性が失われるため排尿筋括約筋協調不全(detrusor‐sphincter dyssynergia : DSD)となり、膀胱高圧のため膀胱壁の肉柱形成,膀胱尿管逆流が頻繁にみられる。これは脊髄における神経可塑性に基づく不可逆的な神経回路が完成してしまうからで、完成された回路の解除は容易ではない。本研究は脊髄損傷に起因する尿道括約筋障害のメカニズム解明と可塑性の抑制を目的に以下の実験を行った。 8週齢SD系雌性ラットを用い、ハロセン麻酔下にTh8レベルで脊髄を切断し、その直後から1日1回グルタミン酸受容体であるNMDAの拮抗薬であるDizocilpin (MK-801)を連日副区内へ投与した。4週後に膀胱頂部よりカテーテルを挿入、頚静脈より薬剤投与のためカテーテルを挿入した。また、外尿道口より、0.05mmステンレス線を挿入し外尿動括約筋筋電図をモニターした。体動による影響を減らすため中脳より上位で徐脳を行い、膀胱内圧を測定した。これにより求心性c-fiberからの知覚刺激の異常伝達にはじまる、神経可塑性に基づく不可逆的回路が構築される時期、部位を明らかにした。その結果、通常の脊髄損傷でみられる排尿反射の亢進とDSDが観察された。また、脊髄損傷までNMDA受容体を遮断することでnon-voiding bladder contractionの発生を抑制することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成30年度は脊髄損傷ラットの作成に時間を費やした。すなわち8週齢SD雌性ラットを用い、ハロセン麻酔下にTh8にて脊髄損傷ラットを作成する。その後、反射性排尿が完成する12週まで排尿補助を行い、12週でハロセン麻酔下に除脳手術を行う。除脳は頸動脈を結紮し止血を確認してから行うが、手技が安定するまでに時間を要した。外尿道口周囲より2本ウレタンコーティング0.05 mm電極を尿道括約筋に挿入し、0.2 ml/minの速さで生理食塩水を膀胱内に注入し、膀胱内圧、外尿道括約筋筋電図を測定した。1回排尿量、残尿量、排尿効率、不随意収縮、バースト時間、サイレント時間をパラメーターとし各種薬剤投与での変化を測定を予定する。外尿道括約筋筋電図はヒトと違い、排尿に際し括約筋の収縮がみられる。これがバースト時間で、その間にサイレント時間があって尿道が開口する。この解析に苦労した。このように本実験は作成手技がなかなか難しく、病態モデルの完成に多くの時間を要したため、実験の進捗はやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
令和1年度は脊髄損傷後に脊髄における神経可塑性が完成するタイミングと部位を解明する。対象分子としては、1)NOS阻害薬(L-NMMA)、2)NMDA受容体遮断薬(dizocilpin)を用いる予定である。dizocilpinは投与の時期を変えてDSDが抑制できるか検討する。3)プロスタグランジン受容体(EP1~EP4)、4)neuropeptideとしてVIP(vasoactive intestinal polypeptide)、NPY (neuropeptide Y)、Tachykinins(NP1-3)、5)オピオイド(κ受容体)の下部尿路機能に対する作用を検討する。排尿障害に関わる神経回路構築までの期間に、異常な脊髄回路を遮断するような処置や薬剤を投与すれば可塑性は阻害され、正常な排尿反射が戻ると仮定し、鍵となる受容体やメディエーターについて研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
病態モデルの確立に時間を要したため、実際に神経可塑性をターゲットとしての薬理実験が少ししかできなかった。翌年度は薬理実験を中心に実験ができると思われ、翌年度分として請求した助成金を合わせて使用する予定である。
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