研究課題/領域番号 |
18K16729
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
関 雅也 福井大学, 学術研究院医学系部門, 助教 (70572444)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 生活習慣病 / 下部尿路症状 / 炎症 / 血管拡張 / 前立腺 / 膀胱 |
研究実績の概要 |
下部尿路症状(lower urinary tract symptoms: LUTS)患者には、α1-blockerや抗コリン薬に高い有効性を示す群と抵抗性を示す難治群とが存在するが、両者の背景にある病態については全く解明されていない。本研究では、メタボリック症候群、高血圧・糖尿病などの生活習慣病に付随する炎症が遷延化すると、炎症性サイトカインの上昇とともに組織リモデリングが下部尿路に生じ、臓器障害から薬物治療抵抗性をもたらすという仮説をたてた。また、この一連の連鎖の中で共通するリスク因子は血管病変であり、組織リモデリングの根幹をなす血管リモデリングに対する戦略が抗炎症から難治性克服に寄与すると考えた。生活習慣病の病態モデルであるOLETFラット(対照としてLETOラット)を用いて難治性LUTSの本質に迫る研究を行った。その結果、正常食でも6ヶ月の時点でOLETFラットには体重増加、高血圧、インスリン抵抗性、脂質異常がみられ、また膀胱内圧測定で排尿筋過活動の所見を認めた。酸化ストレスマーカーであるisoprostane濃度も膀胱では高いこと、膀胱壁伸展に伴う上皮由来ATP、Prostaglandin E2、NGFが多く放出されていることを確認した。また膀胱と前立腺の血流量を測定するとOLETFラットはLETOラットに比べ低下を認めていた。その後3か月間正常食で飼育した群と血管拡張薬であるphosphodiesterase-5 inhibitor (PDE5i)を連日投与して正常食で飼育した群とを比較すると、前者に比べ後者では血流改善とともに組織学的に前立腺の炎症所見の改善がみられた。さらに前立腺重量も低下する傾向が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
OLETFラットとLETOラットは現在3か月間の飼育を終え、膀胱、前立腺、体内脂肪、各種サイトカイン、血清などの採取を完了している。したがってこれからは得られた試料を用いて遺伝子学的、免疫組織学的、内分泌学的評価を行う予定である。結果は順調に得られており、進捗状況は順調である。
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今後の研究の推進方策 |
組織リモデリングの根拠が得られ、また膀胱血流障害に起因する酸化ストレスの増加が観察された。今後は血管拡張薬の持続投与により膀胱血流の改善あるいは前立腺血流の改善が難治性LUTSの新たなストラテジーと成り得るか、研究を進める。具体的には、この病態モデルにおいて抗コリン薬やβ3アゴニストの効果を検証し、治療抵抗性部分の検出を行う。またPDE5iやARB、α1blockerを投与し、上皮由来ATP、Prostaglandin E2、NGFの測定を行う。併せてサイトカイン(IL-1β、IGF-1、TGF-β、IL-6、IL-8、TNF-α)測定を行い、免疫組織学的変化との相関、薬理学的反応との相関から原因となるサイトカインを同定する。さらに当院で前立腺肥大症に対して手術を受けた症例の手術試料を用いて慢性炎症を評価し、臨床パラメータとの相関を検討する。前立腺の炎症評価は、MECA-79、CD34で免疫染色を行い、高内皮細静脈(high endothelial venule; HEV)様血管の数と全体の血管数を数え、HEV様血管の占める割合(MECA-79/CD34 vessel ratio)を算出して炎症の指標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は病態動物の生活習慣病モデルとしての有用性を主に追及したので、予算はそれほど使用しなかった。次年度は分子生物学的検討や各種サイトカインの測定を行うよていであり、試薬やキットにかなりの費用がかかるものと思われる。
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