研究開始当初は卵巣がん幹細胞と卵巣がん細胞のメタボローム解析を行い、両細胞間の細胞内代謝経路の違いから治療標的を探す予定であったが、メタボローム解析では卵巣がん幹細胞に対する治療標的として有効な細胞内代謝経路の同定には至らなかった。 そこで、がん幹細胞性の維持に必要不可欠であるJNK経路阻害剤をdrug repositioningの観点から卵巣癌治療の臨床応用につなげる研究を行う方針とした。そこで着目したのがCEP1347である。CEP1347はJNK経路上流に位置するMLK3に対して阻害作用を有することが報告されている。また、CEP1347はパーキンソン病に対する治療薬として臨床試験が既にPhase2/3試験が行われており、ヒトに対する安全性の情報が存在している。そこでdrug repositioningの観点からCEP1347を卵巣がん幹細胞に対する治療薬として有効であるかを検討した。CEP1347による卵巣がん幹細胞に対する治療効果が証明された場合、卵巣癌の再発および薬剤抵抗性を克服できる新規治療薬となり得る可能性がある。 卵巣がん幹細胞A2780CSCを用いたin vitroでの検討では、①CEP1347がJNK経路を阻害することで、②卵巣がん幹細胞の自己複製能を抑制し、③paclitaxelに対する薬剤感受性を増強し、卵巣がん幹細胞の薬剤抵抗性を改善させる可能性があることが示唆された。一方で、がん幹細胞性のもう一つの特徴である腫瘍創始能の検討といったin vivoレベルでの検討は行われていないため、将来の臨床応用という点でCEP1347の卵巣癌患者に対する効果の検討は不十分である。今後ヌードマウスを用いた腫瘍移植実験などのさらに検討を行うことで、CEP1347が卵巣がん幹細胞を標的とし、卵巣癌の再発および薬剤抵抗性を克服できる新規治療薬となり得る可能性がある。
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