研究課題/領域番号 |
18K16760
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
田村 亮 新潟大学, 医歯学総合病院, 助教 (70650620)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | RNAシーケンス / 全エクソンシーケンス / XCL1 / CD8 / PD-L1 |
研究実績の概要 |
前年度に卵巣成熟嚢胞性奇形腫から発生した悪性腫瘍8例に対して網羅的解析(全エクソンシーケンス5例、RNAシーケンス6例、435癌関連ターゲットシーケンス3例)を行っており、得られたデータを用いて解析を行った。 その結果、本疾患においてがん抑制遺伝子であるTP53、がん遺伝子であるPIK3CAが高頻度に変異していること、また発癌や癌の進展に重要な経路であるPI3K-AKT-mTOR pathwayやCell cycle pathwayに関わる遺伝子に、高頻度に遺伝子異常を起こしていることが明らかとなった。 さらに、大規模データベースを用いて、他の部位から発生した扁平上皮癌および腺癌と本疾患の遺伝子発現を比較したところ、本疾患の遺伝子発現が組織型ごとに異なっていること、特に扁平上皮癌に関しては、従来発生母地として有力と考えられていた皮膚由来の扁平上皮癌より、肺由来の扁平上皮癌に類似した遺伝子発現パターンを示すことを明らかとした。 また卵巣成熟嚢胞性奇形腫から発生した扁平上皮癌に、特徴的に高発現する遺伝子としてXCL1を同定した。そこで、これまでに収集したホルマリン固定パラフィン包埋検体24症例を用いて免疫染色を行い、XCL1発現の本疾患における臨床的意義を検討した。XCL1はリンパ球の活性化に重要な役割を持っている遺伝子であり、XCL1発現はCD8リンパ球浸潤、腫瘍PD-L1と有意に相関していることが明らかとなった。以上よりXCL1は本疾患の免疫逃避に関与している可能性があること、本疾患において免疫療法が有用である可能性が示唆された。 本疾患の分子生物学的特徴をまとめたこれまでの成果は、癌専門誌であるOncogene誌に採択となっている
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで得られた検体に対して網羅的な解析を行い、本疾患における分子生物学的特徴を明らかにした。 一方で、希少疾患のため検体の収集に関しては予定より遅れている。元来の目的である本疾患における融合遺伝子については、症例数が少ないこと、これまでに高頻度な治療標的として有力と思われる融合遺伝子は同定できておらず、in vitro/in vivoでの検証に至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
他施設共同研究を進めさらなる検体収集を継続する。得られた検体の網羅的解析を進めるとともに、これまでに得られた分子生物学的特徴の知見について大規模データセットを用いて検証する。さらに本疾患におけるXCL1高発現の意義および免疫療法の有用性を検討するため、新規の症例の臨床検体を用いて、in vitro/in vivoの検証に用いるリソースの作成を行なっていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
希少疾患を対象としているため、追加の検体採取が順調に進んでいない。そのため、全エクソンシーケンスや RNAシーケンスの追加が進んでおらず、想定した額と差額が生じている。検体採取は適宜継続しており、次年度追加でシーケンスを行う予定となっている。また、臨床検体を用いた細胞実験に関しても進行しており、来年度蛋白発現解析や遺伝子導入実験などにかかる費用が必要となる予定である。また、採択となったOncogene誌へのオープンアクセスを含めた投稿費用について計上する。
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