研究課題/領域番号 |
18K16771
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
石橋 朋佳 島根大学, 学術研究院医学・看護学系, 助教 (40643648)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 癌免疫療法 / PD-1/PD-L1 |
研究実績の概要 |
癌免疫逃避機構と、この機構を標的として新しい癌免疫療法が近年活発となっている。T細胞上に発現する、免疫抑制性補助シグナル受容体PD-1とそのリガンドPD-L1の経路を阻害するPD-1/PD-L1経路阻害薬(免疫チェックポイント阻害薬)は、複数の癌腫で有効であることが報告され、がん種横断的治療としては本邦初となるキイトルーダーがMSI-High固形癌に保険適応となっている。しかし副作用が強く多様であり、薬価も高いため、治療効果を予測するバイオマーカーの探索は急務と考える。卵巣癌では第2相試験で免疫チェックポイント阻害薬の奏功が報告されたが、患者選択にPD-1・PD-L1・CD8の発現の有無を問わない試験であり、卵巣癌い対する免疫チェックポイント阻害薬の効果予測因子としてPD-1・PD-L1発現、またT細胞上に発現する腫瘍免疫の腫瘍なエフェクターであるCD8陽性細胞数が関連するか未だ不明である。卵巣癌において免疫染色でのMismatch repair蛋白(MMR蛋白)発現とPD-1・PD-L1・CD8の発現量との相関を解析し、MSIが免疫チェックポイント阻害薬のバイオマーカーとなるか検討した。 MSIまたPOLE変異が関連する癌は体細胞突然変異の頻度や数が多い癌、すなわちmutation burden richと考えられ、免疫チェックポイント阻害薬の効果が期待される。卵巣癌ではこれらmutaion burden richな腫瘍と免疫チェックポイント阻害薬の関連についてまだ検討されておらず、組織型ごとに免疫チェックポイント分子を解析し、免疫チェックポイント阻害薬の有効性について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
卵巣癌において、治療効果、副作用、また医療経済的な側面からも個々に応じた治療法の選択、すなわちプレシジョンメディスンが重要となり、遺伝子パネル検査が保険適応となった。卵巣癌では子宮体癌と同様にMSI、POLE変異症例を有する症例があり、これらの集団における免疫チェックポイント阻害関連分子発現の検討及び効果予測は重要である。全組織型の卵巣癌症例で凍結組織、あるいはパラフィン包埋ブロックからDNAを抽出し、MSI(MLH1、MSH2、MSH6、PMS2の免疫染色で確認)を評価した。免疫染色評価方法として、MMR蛋白はMLH1、MSH2、MSH6、PMS2のそれぞれの免疫染色を行い、腫瘍細胞にMMR蛋白発現が欠失している場合を陰性と評価し、4つの蛋白いずれかが陰性の場合をMSIと評価した。次に腫瘍細胞におけるPD-L1の発現、腫瘍微小環境におけるCD8、PD-L1の発現について免疫染色で検討した。CD8は免疫染色で腫瘍浸潤リンパ球発現数を0-+3の4段階で評価し、2+以上を陽性と評価した。PD-1、PD-L1については免疫染色で染色陽性レベル5%以上を陽性と評価した。結果MSI症例は137例中6例で4.3%であった。卵巣癌においてはMSIとPD-1・PD-L1・CD8の発現には相関を認めなかった。これらは卵巣癌でのMSIの割合が低いことが影響している可能性がある。また卵巣癌においては免疫チェックポイント阻害薬端座位で効果がある症例は限定的であると考えられる。これらについては、すでに論文として報告した。今後、免疫チェックポイント阻害薬と他の抗がん剤や分子標的治療薬との併用療法について、投与時期や効果などを検討していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
①免疫チェックポイント阻害薬・抗癌剤・分子標的治療薬の効果予測モデルの作成 クリスパーキャス9: CRISPR-Cas9)によるゲノム編集で、POLE あるいはMLH1を欠失させたマウス卵巣癌細胞株を作成し、免疫系が正常なマウスに移植する。実験的にmutation burden richな状態を持つマウスモデルを作成し、PD-1/PD-L1経路阻害薬と他の免疫チェックポイント阻害薬(抗CTLA-4抗体薬)の併用効果、さらに既存の抗がん薬の併用効果を検討する。これにより卵巣癌における免疫 チェックポイント阻害薬がより奏効する治療対象群が明らかとなる。さらに分子生物学的検討を進めることで、免疫チェック阻害薬の有効性を裏付ける機能解析も行うことができる。このmutation burden richマウスモデルが完成すれば、がん免疫療法の臨床応用に多大な貢献が見込まれる。 ②Mutation burden richマウスモデルによる複合免疫療法の検討 卵巣癌では、既に免疫チェックポイント阻害薬の奏功が報告された。しかし、治療効果が特に期待される集団については、未だ検討されていない。卵巣癌において、MSI関連癌の頻度は10%程度、POLE変異の頻度は10-40%程度と推定されている。MSIまたはPOLE変異が関連する癌は、体細胞突然変異の頻度や数が多い癌、すなわちmutation burden richと考えられ免疫チェックポイント阻害薬の効果が期待されている。 免疫チェクポイント阻害剤の有効性を検証するmutation burden richマウスモデルは世界でも報告されていない。このmutation burden richマウスモデルを駆使して、複合的がん免疫療法を検証する事が可能となる。本研究はがん免疫療法の臨床応用に多大な貢献が期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費として、免疫染色試薬購入分として次年度使用額が生じた。 免疫染色はこの研究に重要な研究方法として、今後も購入の可能性がある。
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