インターフェロン誘導遺伝子ISGが、内在性レトロウイルスであるシンシチンが起こす細胞融合を阻害することを証明するために、シンシチンの発現プラスミドベクターを構築し、in vitroの実験を行った。ISGの過剰発現株や、ノックダウン株や、内因性のシンシチンを誘導した細胞を用いてこれらで起きる細胞融合は、ISGの発現により阻害されることを示した。次に、ISGノックアウトマウスを用いて実験を行った。シンシチンは主に胎盤形成時に働くことがわかっており、受精後の雌マウスにインターフェロンを腹腔内投与して、妊娠経過や、新生仔の体重計測、発育状況を観察した。野生型マウスにインターフェロンを投与すると妊娠せず、胎盤も形成されないが、ISGノックアウトマウスでは、インターフェロンを投与しても妊娠が成立し、出産に至った。しかし野生型マウスやノックアウトマウスの正常妊娠と比較して出産数は少なく、仔の発育も不良であった。胎盤の病理像を確認して、野生型にインターフェロンを投与すると胎盤レベルでISGが発現していることを確認した。次に、胎盤形成不全が原因の一つである妊娠高血圧症患者の産後胎盤を採取した。妊娠高血圧症患者の胎盤は、正常妊娠胎盤と比較して、ISGのタンパク質発現が高かった。これらの結果から我々の着目したインターフェロン誘導遺伝子は、シンシチンの機能を阻害することで、胎盤形成不全をきたし、妊娠の成立を妨げていることがわかった。妊娠時の感染症は母体や胎児の生命の危機、発生異常を招く。本研究の結果は、一部のインターフェロン誘導遺伝子は、感染症によって誘導され、胎盤レベルの内在性レトロウイルスの機能を阻害することで、妊娠を中断する役割を持つ可能性を示す。
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