研究課題
令和1年度は子宮内膜組織材料を用いて、子宮内膜の発癌初期過程に関与するPTEN遺伝子をターゲットとするマイクロRNAに着目し、子宮内膜病変の進展におけるPTEN蛋白発現とマイクロRNAの発現について臨床病理学的因子と比較検討し、マイクロRNAの子宮内膜発がん初期段階の早期発見・早期診断の推測に対するバイオマーカーとしての応用可能性について検討を行うことを目標とした。始めに、先行研究およびマイクロRNAのデータベースよりPTEN遺伝子を抑制する可能性が報告されているマイクロRNAとして、miR-200a、miR-200b、miR-205、miR-182およびmiR-183を選出し解析対象にすることとした。次に、正常子宮内膜組織および類内膜癌病変を用いてPTEN蛋白発現について検討を行った。単純子宮全摘出された正常子宮内膜組織30例 (平均年齢41歳)、類内膜癌30例 (平均年齢60歳)のパラフィン包埋材料を用いた。染色評価は腺管および間質それぞれの最も強い陽性所見を-、±、1+、2+、3+で評価し、0から4点としてスコア化して平均値を算出した。統計解析は正常子宮内膜組織群および類内膜癌群の比較をWilcoxonの符号順位和検定によって行った。今回の検討では正常子宮内膜、類内膜癌いずれも腺よりも間質の発現量が多く、正常子宮内膜組織では染まらない場合と弱く染まる場合があった。これらの結果はいずれも先行研究と合致していた。がん抑制遺伝子の一つであるPTENの正常子宮内膜組織での発現は概ね弱いが、癌化に伴い部分的に強発現や消失が認められ、がん組織内での不均質なPTEN遺伝子変異が生じている可能性が示唆された。さらに、ホルマリン固定パラフィン包埋材料からTotal RNAを抽出し、リアルタイムPCRを用いてターゲットのマイクロRNAの定量発現解析を行うための検出条件を決定した。
3: やや遅れている
令和1年度に研究機関を移動したため、研究自体の再開までに時間を要した。また臨床材料の入手が困難であったため、実験計画の遂行順を変更し、ホルマリン固定パラフィン包埋材料を用いた研究を進めることとした。本実験の開始において実験設備の整備やPTEN免疫染色の抗原賦活化の条件検討、また免疫染色結果の画像解析を可能とするための手技の標準化に時間を要した。それらに伴いマイクロRNAの定量解析実験への着手自体が遅れた。さらに、ホルマリン固定パラフィン包埋材料からのマイクロRNA検出の条件検討を行い適切に抽出、検出が可能となった段階で、社会情勢の変化により研究を自粛せざるを得なくなり、実験を止める状況となった。それら様々な状況によりやや遅れが生じている。
令和1年度に遂行してきたパラフィン包埋組織材料を用いた子宮内膜病変の進展におけるPTEN蛋白発現についての臨床病理学的特徴との関連性については引き続き解析を続けるとともに、条件決定を行ったマイクロRNAの定量発現解析について、実験の再開が可能となり次第直ちに着手する。また、症例を増やし、当初予定した実験計画であるin situ hybridization法によるマイクロRNA発現の組織局在との関連性についても、正常子宮内膜、子宮内膜異型増殖症、子宮内膜癌症例を用いて臨床病理学的特徴との関連性とともに検討を進めていく方針である。さらに、臨床材料の入手が可能となれば、産婦人科医のご協力の下、月経血由来のマイクロRNA検出法の検討に着手する予定である。
【理由】当初予定していたマイクロRNAのリアルタイムPCR解析実験が条件検討までとなっため、使用予定であった試薬や消耗品費のための予算額が残ることとなった。また、着手に至らなかったin situ hybridization法のプローブや試薬用の予算が残額となった。【使用計画】本年度の差額分は、次年度のマイクロRNAの定量解析のためのTotal RNA抽出、逆転写反応のための試薬、リアルタイムPCRで使用する試薬や消耗品およびin situ hybridization法のプローブや試薬の購入に使用する予定である。
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