本年度の研究期間では、加齢卵に対して小胞体ストレスを制御することで、その胚発育成績が改善するかどうか、最終的に妊娠率・生産率といった不妊治療における治療成績に直結する部分が改善するかどうかを確かめることを目的として検討をすすめた。 加齢卵に対して小胞体ストレス制御薬(Salubrinal)を体外受精前の期間にのみ投与することで、薬剤投与を行わないコントロールの加齢卵にくらべて胚発育が改善することと免疫染色で確認して胚盤胞における死細胞率が減少することを明らかとした。また、Western blotting法をもちいて、小胞体ストレスマーカーが減少していることを確認した。さらにWestern blottingでは小胞体ストレス応答のカスケードのうち、Salubrinalが作用するPERK経路において、eIF2αがたしかにリン酸化されていることを確認した。Salubrinalはリン酸化eIF2αの脱リン酸化を抑制するはたらきがあるため、今回の検討においてSalubrinalが作用することで小胞体ストレス応答のうちPERK経路が制御され小胞体ストレスが抑制されることで、加齢卵の胚発育が改善していることを証明した。 さらに、Salubrinal処理した加齢卵から胚培養させて得られた胚盤胞を偽妊娠マウスに胚移植したところ、妊娠率が有意に改善することを確認したが、生産率の改善はみとめられなかった。
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