研究課題/領域番号 |
18K16803
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
岡下 修己 徳島大学, 先端酵素学研究所(次世代), 助教 (10757933)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 性決定 / 性転換 / 体外受精 / Sry / DNAメチル化 |
研究実績の概要 |
近年、体外受精などの生殖補助医療の実施件数は増加傾向にある。一方、生殖補助医療で誕生した子供において、エピゲノム修飾異常を起因とした疾患の発症率が高くなることが報告されている。 ほ乳類の性はY染色体の有無という先天的ゲノム情報によって決まる。一方、エピゲノムが性決定に果たす役割は不明であった。本研究室では、ヒストン脱メチル化酵素Jmjd1aが性決定遺伝子Sry遺伝子座の抑制的エピゲノム修飾であるH3K9メチル化を消去することで、その発現を正に調節し、性決定の制御に関わることを明らかにした。この結果は、ほ乳類の性は厳密なエピゲノム制御によって決定することを示した。 上記の解析において、自然交配により生まれたXY型Jmjd1a欠損マウスの全ての個体が性転換を引き起こすわけではなく、精巣と卵巣の両方を有する性転換が不完全な“半陰陽”や性転換を起こさない個体も観察された。しかし、体外受精によりXY型Jmjd1a欠損マウスを作製したところ、すべての個体が性転換を引き起こしており、体外受精が胎児の性決定に影響を及ぼす可能性が示唆された。そこで、本研究では雌雄へのバランスが脆弱なXY型Jmjd1a欠損マウスの遺伝子背景を利用し、体外受精がエピゲノム制御を介して胎児の性決定にいつ、どのような影響を及ぼすのか解明を行ってきた。 まず、体外受精による胎児の性転換の促進は初期胚のどの発生時期が影響しているのか解析を行った。マウスの体外受精の流れは体外受精用培養液内で精子と卵子を受精させた後、受精卵を胚培養液内で2細胞期胚まで発生させ、仮親に移植する。この流れのうち、2細胞期胚までの発生をin vivoで行い、仮親に移植したところ、体外受精による性転換の促進がレスキューされた。この結果は、受精から2細胞期胚まで間を体外培養することでXY型Jmjd1a欠損マウスの性転換が促進したことを示していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、初期胚のどの発生時期が体外受精による胎児の性転換の促進に影響するのか明らかにする予定であった。早期に受精から2細胞期胚までの期間を体外で発生することが性転換の促進に影響することが明らかになった。そこで続いて体外受精がどのようなエピゲノム修飾に影響あるのか解析を行ったところ、Sry遺伝子座のDNAメチル化が体外受精を行うことで上昇していることも明らかとなった。さらに、この高メチル化は体外培養期間中に起こり、性転換期まで維持されていることも明らかになり、予定以上の成果を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
体外受精において、受精後に胚を体外培養することでSry遺伝子座のDNAメチル化が上昇し、このメチル化の上昇が性決定期まで維持され性決定に影響を与えることが明らかとなった。そこで、今後はより先進的な実験を行う予定である。具体的には、体外培養期間中にDNA脱メチル化を人工的に誘導することで体外受精の影響をレスキューできるのか試みる予定である。方法としては①体外受精用培地にDNA脱メチル化酵素の阻害剤を添加すること、②CRISPR/dCas9-Tet1CDシステムを用い、Sry遺伝子座の特異的な脱メチル化を誘導する。以上により体外培養期間中のDNA脱メチル化の促進を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
想定していたより早い段階で成果を得ることができ、それが試薬等の節約につながった。 体外受精による性転換の促進の原因が体外培養期間に起こるDNAメチル化の上昇であることが明らかになったので、より先進的な実験を行いたい。具体的にはDNAメチル化酵素の阻害剤やCRISPR/dCas9-Tet1CDシステムを用いて、人工的に脱メチル化を誘導して、体外受精の影響がレスキューできるのか試みたい。次年度使用額は次年度請求額と合わせて約276,000円のため、次年度に実施予定であった前世代の体外受精の影響が次世代の性決定に対する影響を調べるために必要な消耗品及びマウス維持・購入費に加え人工的に脱メチル化を誘導するための阻害剤及びCRISPR/dCas9-Tet1CDシステム関連試薬の購入費に使用する予定である。
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