近年、体外受精などの生殖補助医療の実施件数は増加傾向にある。一方、生殖補助医療で誕生した子供において、エピゲノム修飾異常を起因とした疾患の発症率が高くなることが報告されている。 ほ乳類の性はY染色体の有無という先天的ゲノム情報によって決まる。一方、エピゲノムが性決定に果たす役割は不明であった。本研究室では、ヒストン脱メチル化酵素Jmjd1aが性決定遺伝子Sry遺伝子座の抑制的エピゲノム修飾であるH3K9メチル化を消去することで、その発現を正に調節し、性決定の制御に関わることを明らかにした。 上記の解析において、自然交配により生まれたXY型Jmjd1a欠損マウスでは全個体が性転換を引き起こす訳ではなく、性転換を起こさない個体も観察された。しかし、体外受精によりXY型Jmjd1a欠損マウスを作製したところ、すべての個体が性転換を引き起いた。そこで、本研究では雌雄へのバランスが脆弱なXY型Jmjd1a欠損マウスの遺伝子背景を利用し、体外受精がエピゲノム制御を介して胎児の性決定にいつ、どのような影響を及ぼすのか解明を行ってきた。 前年度の解析により、体外受精/培養期間中にSry遺伝子座のDNAメチル化が上昇し、このメチル化の上昇が性決定期まで維持され性決定に影響を与えることが明らかとなった。そこで、体外培養期間中にDNA脱メチル化を人工的に誘導することで体外受精の影響をレスキューできるのか試みた。具体的な方法としては①体外受精用培地にDNA脱メチル化酵素の阻害剤RG108を添加すること、②CRISPR/dCas9-Tet1CDシステムを用い、Sry遺伝子座の特異的な脱メチル化を誘導を行い、体外培養期間中のDNA脱メチル化の促進を行った。その結果、阻害剤及びCRISPR/dCas9-Tet1CDシステムを用いた場合において体外受精による性転換の促進をレスキューすることに成功した。
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