①、②試料集積及び調査:2021年度は37名のHTLV-1キャリア妊婦から末梢血、胎盤、臍帯血を集積し、感染の状態と周産期背景とを合わせてデータベース化した。③、④経胎盤感染及び産道感染の可能性の検証:母子感染の有無が判明している106例(人工栄養を選択した例は79例)のうち母子感染が成立した児は4例(3.8%)であった。106例のうち胎盤組織中にHTLV-1プロウイルス(PV)を認めた例が43例(40.6%)であった。人工栄養でかつ胎盤内にPVを認めた32例のうち母子感染成立は2例(6.25%)である一方、人工栄養で胎盤内にPVを認めなかった47例のうち母子感染成立した例はなかった。人工栄養でかつ胎盤内にPVを認めた例で母子感染が成立していたことはHTLV-1の経胎盤感染の存在を示唆するが、統計学的な評価は困難であった。⑤経胎盤感染の分子機構:母体と胎児とを分ける血液胎盤関門を構成する栄養膜細胞、間葉系細胞、血管内皮細胞とHTLV-1感染細胞を用いた共培養では、栄養膜細胞で他の細胞と比較して有意に高いウイルス抗原の発現を示した。さらに、それぞれの胎盤細胞とHTLV-1感染細胞とを共培養した後、ヒト化マウスモデルへそれぞれの感染胎盤細胞を末梢血に投与したところ、栄養膜細胞を投与したマウスでは末梢血中にHTLV-1が検出され、継時的なPV量の増加を認めたが、他の細胞を投与したマウスではそれらの変化は認めなかった。最後に、HTLV-1キャリア妊婦の胎盤組織を用いてin situハイブリダイゼーション法で感染の局在を検討したところ、栄養膜細胞のマーカーであるKRT7陽性細胞では陰性細胞に比べて有意に高いHTLV-1の陽性率を示した。これらの結果は実際の生体内においてHTLV-1経胎盤感染の可能性を示唆した。今後は本研究で得られたデータベースと出生後のデータを継続して解析することで、統計学的な評価を行なっていく予定である。
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