研究課題/領域番号 |
18K16806
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
山口 宗影 熊本大学, 病院, 講師 (20626535)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 子宮内膜癌 / プロラクチン / ホルモン / 代謝性疾患 / 生活習慣病(高血圧、糖尿病) / 子宮内膜 / 妊孕性温存 / エストロゲン |
研究実績の概要 |
我々は、若年子宮内膜癌患者の約半数が高プロラクチン(PRL)血症を呈することを報告した。若年子宮内膜癌患者におけるPRLによる発癌機構を解明することを目的として、研究を行った。月経周期における正常子宮内膜に対して、免疫組織化学を行い、子宮内膜腺におけるPRL受容体は増殖期で有意に発現が高く、PRL受容体はエストロゲン受容体(ER)の発現と相関した。正常増殖期子宮内膜腺細胞株(EM-E6/E7/TERT)と若年子宮内膜癌細胞株(Ishikawa細胞)にPRLやE2(エストラージ)を添加すると、PRL受容体やERの発現上昇や増殖能の亢進がみられた。高PRL血症の無排卵周期の若年女性では、E2の存在のもと、PRLが増殖期子宮内膜腺に長く作用し、子宮内膜腺がさらなる増殖をきたすことが示唆された。Ishikawa細胞ではPRL添加後にMAPKのみが活性化され、この経路が癌細胞増殖に重要な役割を担っていることが示唆された。
子宮内膜癌は2013年にTCGAにより4分類され、欧米では7%を占めるPOLE変異子宮内膜癌は、比較的若年女性に多くみられるが、アジア人女性の有病率は検討されていない。今回、アジア人女性のPOLE変異に関して検討した。日本人127名を検討し、5名(3.9%)にPOLE変異がみられた。2名は既知のS459Fで、残り3名はP441Pであり、シノニマス変異であった。腫瘍内遺伝子変異量を検討し、この変異は病的変異であることが確認されアジア人に多い変異であることが示唆された。また、5名を病理組織学的に検討し、POLE変異子宮内膜癌では若年子宮内膜癌に多くみられる子宮内膜異型増殖症を経て進展するタイプⅠの発癌機構を経ることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究開始後、高プロラクチン(PRL)血症を伴う若年子宮内膜癌患者に対して、高用量プロゲスチン療法に加え、抗PRL薬であるカベルゴリンを併用すると、子宮摘出までの期間を延長するという臨床研究結果を報告した。 その後、子宮内膜癌患者を血清PRL値別に分け、子宮内膜癌組織の免疫組織化学を行い、タイプⅠ子宮内膜癌では、高PRL群では患者のインスリン抵抗性がみられず、PRL受容体やその下流因子であるpJAK2の発現が有意に高く、タイプⅠで多くみられるPTENの変異がみられなかった。高PRL群の発癌機構が独立して存在することが示唆された。 最後に、細胞株実験を行い、PRLが正常子宮内膜腺や若年子宮内膜癌細胞株に対して及ぶす分子学的変化を解明することができた。
さらに、先に示した日本人におけるPOLE変異子宮内膜癌の臨床病理学的検討を開始したが、新型コロナウイルス感染症への対応により、一部は研究計画通りに実施できなかったた。
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今後の研究の推進方策 |
若年子宮内膜癌患者において、高プロラクチン(PRL)血症患者を抽出し、PRLを介した発癌機構に基づいた治療戦略が重要であることが示された。当教室では、引き続き、カベルゴリンを併用した治療を継続し、長期予後を報告する予定である。
さらに、若年子宮内膜癌患者に比較的多くみられるPOLE変異子宮内膜癌やマイクロサテライト不安定性子宮内膜癌に関して、分子学的ならびに遺伝子学的に検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症への対応により、研究計画通りに実施できなかったため。
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