本研究は、胎盤形成とカルレティキュリン(CRT)の関連について解明することを目的としている。胎盤絨毛形成の過程において、細胞性栄養膜細胞(Cytotrophoblast; CTB)から合胞体栄養膜細胞(Syncytiotrophoblast; STB)への細胞融合・多核化(シンシチウム化)が非常に重要な役割を果たす。 平成30年度はヒト絨毛癌細胞株であるBeWo細胞を用い、CRT低発現細胞株を作製した。BeWo細胞において、CRT発現抑制により細胞表面のE-カドヘリン依存性の細胞間接着能が低下し、シンチチウム化能が低下することがわかった。 平成31年度はヒト胎盤や血清を用いてCRTの発現について評価を行った。また妊娠高血圧腎症(PE)で問題とされる小胞体ストレスがCRT産生へ与える影響について解析を行った。ヒト胎盤組織で栄養膜細胞にCRTが強発現していた。胎盤組織のCRT発現は正常妊娠とPEとで差を認めなかったが、母体血のCRT濃度は正常妊娠に比べPEで高かった。次いでBeWo細胞に小胞体ストレスを負荷したところ、CRTの細胞外分泌が増加することがわかった。また細胞外CRTによりフォルスコリン誘導性のシンチチウム化能およびβ-hCG分泌が抑制され、BeWo細胞において、細胞外CRTがシンチチウム化に影響を及ぼしていると考えられた。 令和2年度は正常胎盤由来の初代培養CTB細胞(pCTB)を用い、小胞体ストレス下でのCRT細胞外分泌について評価した。pCTBに小胞体ストレスを負荷したところ、BeWo細胞と同様にCRTの細胞外分泌が増加した。 以上の研究により、小胞体ストレスにより細胞外に過剰に分泌されたCRTがシンチチウム化に影響を及ぼし、妊娠高血圧腎症の病態に関与する可能性が示唆された。
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