産後うつ病には、遺伝的要因や内分泌学的要因、環境要因といった多数の因子が交絡的に関与している。しかし、マウスを用いた産後うつ様行動の実験では、母マウスの出産に伴う性ステロイド状態の変動やストレス状態の変化に着目することが多いが、遺伝的に異なる系統間での比較は乏しい。 本年度は、マウス系統による育仔放棄または喰殺行動の違いを比較するため、Slc:ICRマウスとC57BL/6NCrSlcmマウスを妊娠・出産させて仔に対する行動を観察した。Slc:ICRマウスにおいては、出産を経験した10匹全てが正常に仔育てを行ったのに対して、C57BL/6NCrSlcmマウスは23匹中7匹で育仔放棄または喰殺行動を示した。系統による違いの原因として、ストレス状態や性ステロイドホルモンレベルに違いがあるか否かについて検証するために、妊娠前、出産前、出産後について、血漿コルチコステロンやエストラジオール、テストステロン値をELISAにて測定予定である。また、昨年度までにin situ hybridizationを用いてエストロゲン受容体βの発現を調べる方法は確立したが、他の受容体(エストロゲン受容体αおよびアンドロゲン受容体)との共局在を考慮する上では免疫染色との共染色が必要であったため、条件検討を行った。
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