加齢性難聴や騒音性難聴は、近年、生活環境の変化や高齢化社会の進展に伴い患者数の増加が懸念されている疾病である。この難聴の主要因は、酸化ストレスによる内耳障害であるとされている。そのため、酸化ストレスに伴う内耳障害の有効な予防法や治療法を解明することができれば、健康長寿社会に実現に向けて大きく貢献することが期待される。特に本研究では酸化ストレス防御において中心的役割を果たす転写因子Nrf2に着目して解析を進めている。 これまでに本研究者は、ヒトにおいてNrf2の活性低下が知られる一塩基多型が騒音性難聴の発症に関連することを報告した。さらに、マウスにおいてNrf2の活性化によって騒音性難聴を予防できることも報告した。この結果から、Nrf2の活性化は臨床的に騒音性難聴予防の有効なターゲットになりうると考えられた。 一方、騒音性難聴より患者数が多く重要な疾患である加齢性難聴とNrf2との関連についてはいまだ解明されておらず、本研究ではこの解明を目指した。加齢性難聴の研究が困難である一つの要因は、マウスの長期飼育が必要であるために解析までに長期間を要することである。今回、本研究者はマウスの長期飼育ののちにNrf2の活性化により加齢性難聴を予防することが可能であることを明らかにした。さらに、蝸牛の周波数帯域ごとに組織学的な詳細な検討を行い、加齢性難聴の予防に対するNrf2の内耳における機能を検討して報告した。
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