本研究ではアレルギー性鼻炎における神経系と免疫・炎症系の相互作用を解析し、鼻炎の病態解明に寄与することを目的とした。ボツリヌストキシンを用いた副交感遮断の研究では、アレルギー性鼻炎モデルにおいて投与群と非投与群の比較で、行動実験および免疫組織学的検討、炎症サイトカインの遺伝子発現において群間に有意な差は認めなかった。TRPに関する検討では、TRPチャンネルのアゴニスト刺激により鼻炎症状が誘発され、三叉神経節におけるTRPの発現が亢進していることが確認された。一方でアレルギー性鼻炎モデルではTRPチャンネル刺激はアレルギー性鼻炎の症状を修飾しないことが示唆された。加齢性のマウスおける検討では、加齢モデルの鼻組織では、遺伝子レベルではTRPM8の発現が増加していることが確認され、TRPM8のアゴニストのメントールを点鼻するとくしゃみ症状が増悪することが確認された。さらにTRPM8ノックアウトマウスおよびwild typeマウスにメントールを点鼻して過敏症状を解析したが、双方に差は認めなかった。メントールをwild typeの加齢モデル及びTRPM8ノックアウトマウスの加齢モデルに点鼻するとノックアウトの加齢モデルマウスの方がwild typeの加齢モデルマウスよりも有意に過敏症状が減っており、TRPM8は加齢によっておこる鼻過敏性の亢進に関与している可能性が示唆された。アレルギー性鼻炎をふくむ鼻過敏症はこれまで免疫学的な検討を中心に行われていたが、今回の検討は鼻炎症状における神経の果たす役割を解析した新しいアプローチからの検討となる。鼻過敏症における鼻粘膜の神経の役割、特に知覚神経におけるTRPチャンネルの役割の解析により、これまで治療の選択肢の少なかった血管性鼻炎などの鼻の過敏症に対する将来的な創薬等も期待される。
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