研究課題/領域番号 |
18K16841
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小山 佳久 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (40397667)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 難聴 / ストレス |
研究実績の概要 |
難聴発症機序研究の問題点の1つに、病態モデルが少ないことが挙げられ、難聴機序解明のためにも適したモデル動物の作製は急務とされる。難聴の発症には様々な要因が挙げられるが、我々はストレスが難聴の発症や症状悪化に大きく関わると考え、ストレスによって誘発される新規難聴モデルマウスの作製に取り組んだ。24℃と4℃を交互に30分間ずつ繰り返す急激な温度変化による寒冷ストレスを1日7回、2日間負荷することによって作製される反復性寒冷負荷マウス(repeated cold: RCマウス)は、持続的な疼痛を誘発するほどの強度なストレス負荷モデルである。我々は寒冷ストレス負荷条件の改善を行い、より高頻度にRCマウスが難聴を発症する条件を確立した。 続いて、我々の新規難聴モデルマウスを用いて、ストレス性難聴のメカニズム解析に取り組んだ。難聴を発症したRCマウスの蝸牛において炎症が起こっているか、炎症マーカー抗体(好中球:Gr-1、マクロファージ:Iba-1)を用いた免疫染色やHE染色標本観察にて調べた。RCマウスの蝸牛において、免疫染色法による陽性シグナルは観察されず、炎症を示すエオジンの濃染も観察されなかった。以上より、難聴を発症したRCマウスの蝸牛で炎症が起こっていないことが明らかとなった。 次に、神経活動マーカーc-Fos抗体を用いた免疫染色によって聴覚経路関連領域の神経活性を検討した。その結果、蝸牛神経背側核、台形体核、下丘、内側漆状体及び聴覚野においてc-Fosの発現が観察された。これらの結果は、難聴を発症したRCマウスの聴覚経路関連領域の活性化を明らかとした。 蝸牛における炎症ではなく中枢神経系における聴覚経路の活性化がRCマウスの難聴の1つの原因になるかもしれない。今後は、蝸牛における影響の有無と聴覚伝達関連領域の神経活性とストレスによる難聴発症との関連性を検討していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
難聴発症機序研究の問題点の1つに、病態モデルが少ないことが挙げられ、難聴機序解明のためにも適したモデル動物の作製は急務である。特に薬剤投与や外科的手術などの直接蝸牛に影響を与えない本計画書の難聴モデルマウス作製は、ストレス性難聴の作用機序解明に非常に重要である。それゆえ、難聴の発症率を上げることは最重要課題である。 我々は寒冷ストレス負荷の条件を改善することによって、高頻度にRCマウスが難聴を発症するか検討を行った。飼育環境の温度を30分ごとに4℃と24℃交互に切り替えることによって寒冷ストレスをマウスに負荷している。しかしながら、現状の温度から変化後の設定温度に到達するまでに時間がかかり、実際のところ設定温度の状態で30分間維持できていない。そのことが、RCマウスにおける難聴発症率を低くしていると考え、設定温度が30分間保持されるように、温度の移行時間も加えたプログラムに変更した。その結果、これまでの条件より高頻度でRCマウスが難聴を発症することが分かった。ただ、この条件確定に想定以上に時間を費やしたため、計画の進行が遅れてしまった。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度、我々はRCマウスが高頻度に難聴を発症する寒冷ストレス負荷条件を確定することができた。さらに、難聴を発症したRCマウスにおいて、蝸牛において炎症は発生しておらず、聴覚経路に関連する神経領域の活性が観察された。以上のことから、ストレスによって誘発される難聴の原因は中枢側の聴覚伝達にある可能性が考えられる。詳しくは後述するが、今後、蝸牛の内有毛細胞に異常がないか解析を行い、さらに聴覚伝達経路で観察された心敬活性化と難聴の関連を調べる予定である。 難聴を発症したRCマウスの蝸牛において、炎症は観察されなかった。従来、難聴発症時には内耳有毛細胞の脱落や毛の消失が観察される。それゆえ、RCマウスの内有毛細胞の脱落について、ファロイジン染色標本や走査電顕標本を作製して解析を行う。また、騒音性難聴モデルマウスにおける内耳の脱落には酸化ストレスによるアポトーシスが関与していることから、過酸化物質である8OHdGやHEL抗体、アポトーシス実行因子であるcaspase3抗体による免疫染色法や細胞死を検出するTUNEL染色法を用いて、RCマウス内有毛細胞の酸化ストレス度合いや細胞死についても検討を行う。 また、中枢神経系の聴覚伝達経路においては、どのような種類の神経細胞(ニューロンもしくはグリア細胞、興奮性ニューロンもしくは抑制ニューロンなど)が活性化しているか各種マーカー抗体を用いた免疫染色にて検討を行う。さらに、聴覚経路伝達系に関わる領域で炎症や酸化ストレス、神経細胞の脱落が起こっていないか、前述の蝸牛と同様に、各種マーカー抗体を用いた免疫染色によって解析を行う。 蝸牛もしくは聴覚伝達関連領域において、酸化ストレス状態が観察された場合、ビタミンC及びEやポリフェノール、水素水などの抗酸化物質の投与によって難聴発症が抑制されるか、検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度もストレス誘発難聴モデルの再現性の確立に時間がかかったため、組織学解析の一部が次年度に持ち越しとなったため、今年度の研究費の一部を次年度に持ち越した。
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