難聴発症機序研究の問題点の1つに、病態モデルが少ないことが挙げられ、難聴機序解明のためにも適したモデル動物の作製は急務とされる。難聴の発症には様々な要因が挙げられるが、我々はストレスが難聴の発症や症状悪化に大きく関わると考え、ストレスによって誘発される新規難聴モデルマウスの作製に取り組んだ。24℃と4℃を交互に30分間ずつ繰り返す急激な温度変化による寒冷ストレスを1日7回、2日間負荷することによって作製される反復性寒冷負荷 (repeated cold: RC) マウスは、持続的な疼痛を誘発するほどの強度なストレス負荷モデルである。我々は寒冷ストレス負荷条件の改善を行い、より高頻度にRCマウスが難聴を発症する条件を確立した。 続いて、新規難聴モデルマウスを用いてストレス性難聴のメカニズム解析に取り組んだ。炎症マーカー抗体を用いた免疫染色やHE染色標本観察にて難聴モデルマウス内耳の炎症を調べたが、全く観察されなかった。さらに、内耳ファロイジン染色で有毛細胞の状態を観察した。聴覚の低下の有無に関わらず、RCマウス有毛細胞では、一部の毛が抜け落ちていたが、細胞の脱落は観察されなかった。以上より、難聴を発症したRCマウスの蝸牛で炎症が起こっていないことが明らかとなった。 次に、神経活動マーカーc-Fos抗体を用いた免疫染色によって聴覚経路関連領域の神経活性を検討した。その結果、蝸牛神経背側核、下丘や聴覚野などにおいて陽性シグナルが観察された。一方で、聴力低下が起こらなかったRCマウスでは、聴覚経路の一部しか陽性を示さなかった。以上より、難聴を発症したRCマウスでは、聴覚経路関連領域の活性化が起こっていることが明らかとなった。 本研究課題より、感覚器の蝸牛ではなく中枢神経系における聴覚経路の活性化がストレス性難聴の1つの原因になるかもしれないことを明らかとした。
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