研究実績の概要 |
ラセン神経節ニューロン(SGN)は、音刺激を蝸牛有毛細胞から中枢聴覚野へと伝達する一次聴覚ニューロンであり、胎児期のウイルス感染や遺伝性、薬剤性、音響外傷などの病的状態のみならず、老化でも傷害されることで後迷路性難聴に至る(Kirikae,AUDIOLOGY 1965)。しかし、有毛細胞傷害にはある程度有効な補聴器や人工内耳などのデバイスによる対症療法も、SGNが傷害された後迷路性難聴には限定的な効果しか期待できない。そのため、失われるSGNを保護し、また効率よく再生・補充することで聴力を回復させるような、根本的難聴治療法が切望されている。 成体哺乳類ラセン神経節(SG)では、SGNは再生されないとされてきた(Lang et al. Sci Rep 2015)。しかし申請者らは、この通説を覆し、薬剤(ウアバイン)投与によるSGN傷害応答性に増殖を開始し、SGNを産生できる神経幹/前駆細胞(NS/PC)の存在を成体マウスにて証明した。さらに、その増殖・分化・生存制御により、効率的SGN再生と聴力改善に成功した(JCI Insight 2021)。 本研究において、申請者らは成体マウスにおいて内耳を薬剤性に障害することで一部の神経細胞が再生能を示すことを確認し、成体マウスにおける聴神経の再生の可能性を証明した。また、その確認のみならず、その効率的な再生と聴力再生を目的として細胞外因子(増殖因子)と細胞内因子(エピジェネティクス)を組み合わせた制御により、聴神経の再生と聴力の回復を証明し、今後の聴力再生医療へのつながる発見を前述の英語論文誌にて発表した。
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