2018年度に、研究計画に基づいて正常iPS細胞にCRISPR/Cas9を用いてDFNA5疾患特異的iPS細胞を樹立した。これら疾患iPS細胞からDFNA5陽性細胞が誘導可能であるかを検討し、実際に誘導が可能であることを2018年度に確認している。また、正常細胞におけるDFNA5の発現の変化をRNAレベルおよびタンパクレベルで解析し、細胞ストレスに対する応答によりこれらの発現量および分子量が変化するかを検討し、ストレス負荷時に発現量が変化すると同時に、合成されたDFNA5タンパクの切断により分子量の変化を生じることを確認していた。2019年度は、本現象が疾患ラインで生じるか、また、正常細胞由来内耳細胞と比較して特異的な反応を来すかどうかを検討した。さらに、生じるとしたらその変化が仮説通りに細胞死を誘導するかどうかを検討した。我々の検討では、疾患iPS細胞由来内耳細胞においても正常細胞と同様に特定の細胞ストレスに反応し、DFNA5遺伝子の発現量の増加が生じることが分かった。また、正常細胞と同様に合成されたDFNA5タンパクの切断により分子量の異なる産物が生じることが分かった。 2020年度は、患特異的iPS細胞由来内耳細胞から誘導される異常DFNA5の分子生物学的な特徴の更なる解析を行った。具体的には、上述のとおりストレス反応に応じて、切断されて生じたと考えられる低分子量のDFNA5タンパクが生じるが、本タンパクが正常iPS細胞由来内耳細胞と変異iPS細胞由来内耳細胞の間で、分子生物学的挙動が異なるかを検討した。その結果、従来の説と異なり正常細胞と疾患細胞で明らかな低分子量DFNA5の発現量の差を認めなかった。しかしながら、分化に伴い低分子量タンパクの発現量は変化することが確認できた。細胞間での明らかな細胞ストレスに対する細胞死の亢進を確認することはできなかった。
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