研究実績の概要 |
遺伝性難聴の中でも最も頻度が高い原因遺伝子は、ギャップ結合蛋白であるコネキシン26をコードしているGJB2遺伝子である。先天性高度難聴児は幼少児期に末梢平衡機能にも障害を伴う頻度が極めて高いことが知られている。また、遺伝性・加齢性・薬剤性・ウイルス性などによる平衡機能障害においては、前庭有毛細胞の損失がみられることが報告されている。コネキシン26は、蝸牛外側壁線維細胞とコルチ器支持細胞に発現するが、前庭器官(半規管・耳石器)にも免疫組織学的に存在していることが報告されている。研究代表者は、ヒトで証明された優性阻害効果を認めるR75W変異を有するGjb2マウスモデルおよびGjb2コンディショナルノックアウトマウスを作成・維持し、これまで特に前庭に関与する病態を解析してきた(Okada, J Otol Rhinol, 2015)。本課題では、前庭器官と蝸牛を共に標的としたGjb2遺伝子治療ベクターの投与法の開発および遺伝子治療後の前庭器官の機能的解析により、研究代表者が開発した前庭へのアデノ随伴ウィルスによる遺伝子導入法(Okada, Otol & Neurotol, 2012)を最適化し、前庭を標的とした遺伝子治療法を確立する。これまで半規管からのアデノ随伴ウィルス(AAV)の投与法の検討を行った。マウスGjb2遺伝子を搭載したAAVを後半規管に設けた小孔に、微細チューブを挿入する方法を検討した。従来の正円窓投与は0.5マイクロリットル程度の微量の投与量であったが半規管投与では約5~10マイクロリットルのウィルス液を投与でき、手術による聴力低下は見られなかった。さらにAAVのカプシド領域の改変により新たなベクターの開発を行った。現在、平衡器官への遺伝子導入効率の高いベクターを選抜している。
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