唾液腺癌における局所免疫環境を考えるにあたり、PD-L1と肥満細胞の関係に着目した。肥満細胞はキマーゼやトリプターゼを産生し、特にキマーゼは血管内干増殖因子であるVEGF、基底膜を分解するMMP-9、上皮間葉転換を制御するTGF-betaなどのメディエーターを活性化させ、腫瘍の増殖や転移を促進させる。耳下腺癌で最も多い組織型である粘表皮癌の原因を探るべく、肥満細胞やその分泌物質と腫瘍病理の関係に関する研究を進めた。 高悪性度粘表皮癌は予後不良であることが以前から知られている。耳下腺の粘表皮癌の切除腫瘍44検体を用いた。その検体において、高悪性度MECにおけるキマーゼ陽性肥満細胞のパターンおよびキマーゼ遺伝子発現を、低悪性度MECおよび中悪性度MECと比較検討した。高悪性度MECでは、キマーゼの発現、およびキマーゼ陽性肥満細胞の増加が顕著であることが判明した。また、高悪性度MECでは、PCNA陽性細胞やVEGF遺伝子発現の有意な増加、リンパ管新生が確認された。また、キマーゼの基質である潜在性トランスフォーミング成長因子β(TGF-β)1やプロマトリクスメタロプロテアーゼ(MMP)-9が高悪性度MECで免疫組織学的に検出された。これらのことから、キマーゼ活性の上昇は、悪性状態での増殖活性やメトスタシスを高める可能性があり、キマーゼの阻害は耳下腺の高悪性度MECの予後を改善する戦略である可能性が示唆された。
|