研究課題
聴覚の受容器官である内耳蝸牛を満たす「内リンパ液」は、150 mMのK+濃度と+80 mVの高電位を示す特殊な細胞外液である。この特殊なイオン環境と高電位の破綻は難聴を惹起する。我々は、これまでの研究で①内リンパ液のイオン環境や高電位などの恒常性は、蝸牛側壁の『血管条』という上皮様組織により維持されること、②血管条にはイオン輸送分子などの多くの膜タンパク質が発現していることを報告した。しかし、これらの膜タンパク質がどのように機能制御され、精巧な内リンパ液環境が維持されるのかは不明であった。この課題を解決するため、膜タンパク質に結合する糖鎖に着目した。一般に、体内に発現するタンパク質の約50%は糖鎖修飾されており、糖鎖により、イオン輸送分子などの機能調節、シグナル伝達などが行われている。血管条においても同様のことが推察される。タンパク質に結合する糖鎖には、アスパラギンと結合するN-結合型糖鎖とセリン、スレオニンと結合するO-結合型糖鎖がある。本研究ではN-結合型糖鎖について研究を行った。本年は、蝸牛血管条に発現するN-結合型糖鎖の網羅的解析を行った。約50~100匹のラットより実体顕微鏡下に血管条を収集し、高速液体クロマトグラフィーと質量分析計を用いて、蝸牛血管条に79種類のN-結合型糖鎖を同定しすることができた。この解析結果を論文発表した。
1: 当初の計画以上に進展している
当初予定した、N-結合型糖鎖の網羅的解析についての研究は順調に進捗し、論文報告することができた。
蝸牛血管条に発現するN-結合型糖鎖の網羅的解析は終了したので、今後は、血管条におけるN-結合型糖鎖の機能解析を行いたいと考えている。血管条は、細胞膜を介して様々な種類のイオンを能動的あるいは受動的に輸送しており、電解質輸送は電気生理学的手法で測定できる。その測定には、マイクロウッシングチャンバー法を用いる。まず、血管条の短絡電流を測定し、その後にN-結合型糖鎖をタンパク質から外す酵素や、シアル酸を外す酵素を用いて血管条の糖鎖構造を変化させたうえで、短絡電流の変化を測定する。本解析によりN-結合型糖鎖の血管条における電気生理学的機能の解析が可能であると考える。
本年は実験で使用する試薬類が当初の予測より少なかったため。
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Scientific Reports
巻: 9 ページ: 1551
10.1038/s41598-018-38079-0.