研究課題/領域番号 |
18K16879
|
研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
加藤 幸宣 福井大学, 学術研究院医学系部門(附属病院部), 助教 (00748981)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 口腔アレルギー症候群 / アレルギー性鼻炎 / 花粉-食物アレルギー |
研究実績の概要 |
申請者は、シラカンバ花粉で全身感作させたマウスにリンゴを経口投与することで、全く報告例のない新規口腔アレルギー症候群モデルマウス(PFASモデルマウス)の作製に成功した。PFASモデルマウスでは、シラカンバ花粉の腹腔内投与による全身感作後に同抗原を経鼻感作させる。その後リンゴを経口投与する。PFASモデルマウスではリンゴ経口投与後に、口かき動作を認める。口かき動作はOAS症状と酷似しており、ナイーブマウスにリンゴを投与しても決して認められない。申請者は、このモデルマウスを用いて口腔アレルギー症候群の発症機序・病態解明に関する様々な研究を行っている。IgEシグナリングが抑制されているFcεR1欠損マウスをPFASモデルマウスに適用すると、野生型マウスに比べて明らかにリンゴ経口投与後の口かき回数が抑制された。また、肥満細胞欠損マウスにおいても、野生型マウスに比べて口かき回数の抑制が認められた。つまり、申請者が作製した新規PFASモデルマウスにおいて、口かき症状にはIgEを介した肥満細胞の役割が必須であることが明らかとなった。また、IL-33欠損マウス、TSLPR欠損マウスをPFASモデルマウスに適用した。IL-33欠損マウス、TSLPR欠損マウスでは、野生型マウスに比べて、血清特異的IgEの低下、活性化Th2細胞の抑制、リンゴ経口投与後の口かき回数の低下を認めた。これらの結果からIL-33やTSLPが口腔アレルギー症候群において重要な役割を担っている可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は自らが作製した新規PFASモデルマウスを用いて、口腔アレルギー症候群の発症機序・病態解明に関する様々な研究を行っている。口腔アレルギー症候群に関する基礎的研究は報告が乏しく、モデルマウスが存在しなかった。シラカンバ花粉で全身感作させたマウスにリンゴを経口投与するとマウスは口かき動作を認める。これは口腔アレルギー症候群における口腔症状と極めて近似している。PFASモデルマウスを用いた今回の研究において、FcεR1欠損マウスや肥満細胞欠損マウスでは、リンゴ経口投与後の口かき回数が有意に抑制された。このことから、口腔アレルギー症候群の症状発症にはIgEを介した肥満細胞の働きが必須であることが明らかとなった。また、IL-33欠損マウス、TSLPR欠損マウスでは、野生型マウスに比べて、血清特異的IgEの低下、活性化Th2細胞の抑制、リンゴ経口投与後の口かき回数の低下を認めた。2型炎症に関わる上皮由来サイトカインであるIL-33やTSLPが口腔アレルギー症候群の病態に深く関わる可能性が示唆された。 以上より、新規PFASモデルマウスにおける病態解明が進んでおり、本研究課題の進捗状況として、おおむね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
新規PFASモデルマウスを用いて口腔アレルギー症候群の更なる発症機序・病態の解明を行う。 ①PFASモデルマウスにおける自然免疫系の関与を調べる。RAG2欠損マウスやRORα欠損マウスをPFASモデルマウスに適用し、ILC2sの有無による口腔アレルギー症候群発症の影響を調べる。また、前処置として抗CD90抗体を腹腔内投与することでILC2sを不活化させた野生型マウスを、PFASモデルマウスに適用し、口腔アレルギー症候群発症の抑制を検証する。ILC2sの関与が明らかとなれば、抗体によるILC2s不活化の臨床応用を検討する。 ②ω3脂肪酸含有飼料を与えたマウスをPFASモデルマウスに適用し、口腔アレルギー症候群改善とメカニズムを検証する。炎症性脂質メディエーターの抑制、抗炎症性代謝物の産生をELISAで評価する。また、ラット好塩基球性白血病細胞RBL-2H3やヒト肥満細胞株をω3脂肪酸で刺激後、βヘキソサミニダーゼを測定し、脱顆粒抑制能を検証する。 ③口腔環境・TLR免疫応答が、花粉症患者間でのOAS発症の差異に関わる可能性を検証する。各種TLRリガンド・TLR阻害ペプチドを用いて、PFASモデルマウスに適用し、OAS発症を比較検証する。また、無菌マウスをPFASモデルマウスに適用し、細菌叢を持つ通常マウスとのOAS発症の違いを検証する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 本年後の研究計画を遂行するために必要な各種機器、物品、試薬を準備した。また、成果を発表するための国内旅費が必要であった。本研究はマウスを対象とした実験が主体であり、マウスの購入や飼育のために研究費を使用した。研究を進めていく上で本年度使用額は適切な額であった。次年度研究に向けて残額を繰り越し、使用することが望ましいと考えられた。従って次年度使用額が生じた。 (使用計画) 本研究はマウスを対象とした実験が主体であるため、マウスの購入、飼育費を中心に使用する。また、マウスに投与する抗原、ELISAやPCRに必要な試薬、組織染色、細胞刺激培養液などを用いて実験を行う。研究成果は英語論文にて発表する。また、成果を日本耳鼻咽喉科学会、日本鼻科学会、日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会、日本アレルギー学会、国際学会などで発表することで社会への発信を予定しており、使用を計画している。
|