研究課題
スギ舌下免疫療法(SLIT)開始後1~2年のスギ・ヒノキ花粉症患者82人(SLIT群)、SLITを施行していないスギ・ヒノキ花粉症患者25人(non-SLIT群)、花粉症のない患者20人(Healthy Control:HC)から非飛散期の末梢血を採取し、PBMCと血清を採取した。PBMCにCry j 1(スギ花粉主要アレルゲンコンポーネント)、Cha o 1・Cha o 3(ヒノキ花粉主要アレルゲンコンポーネント)で刺激して上清を採取し、サイトカインを測定した。また、血清の免疫グロブリン濃度を測定した。Cry j 1・Cha o 1・Cha o 3刺激時には、non-SLIT群と比較してSLIT群では、IL-5・IL-17産生が有意に抑制された。IL-10産生は、Cry j 1刺激時にのみ、non-SLIT群と比較してSLIT群で有意に増加した。Cha o 1・Cha o 3刺激時にはIL-10産生は誘導されなかった。non-SLIT群と比較してSLIT群では、Cry j 1特異的IgE値、IgG4値のみが有意に増加し、Cha o 1・Cha o 3特異的IgE値、IgG4値は増加しなかった。今回の結果から、スギSLITではスギ抗原(Cry j 1)特異的なIL-10産生やIgG4は誘導されるが、Cha o 3だけでなく、交差反応性をもつとされるヒノキ抗原(Cha o 1)特異的なIL-10産生やIgG4も誘導されないことが示された。SLITの効果にはIL-10を産生する制御性T細胞や制御性B細胞が大きく関わっているとされるため、スギSLITではヒノキ花粉症に効果がない可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
PBMCを刺激した時のサイトカイン産生の検討では、スギSLITの効果がヒノキ花粉症に対して十分でない要因として、Cha o 3特異的に効果が減弱するわけではなく、Cry j 1と交差反応性をもつCha o 1刺激時にも効果が減弱することを示した。また、血清の免疫グロブリン濃度の差についても同様の結果を示した。これは当初予期していた結果ではなかったが、スギSLITの効果がヒノキ花粉症に効果が充分でないためヒノキ花粉を追加したSLITの必要性を探る、という当初の最終目標にたがうものではなく、むしろ肯定する結果であると考える。
実際の症状との相関を確認することが必要となるため、好塩基球刺激試験を用いた比較試験も行う予定である。最終的には、研究実施計画に基づき、SLITの効果を予測する因子を明らかにするために、マイクロアレイ法を用いて網羅的に解析する予定である。
すべて 2020
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Clinical Immunology
巻: 210 ページ: Jan
10.1016/j.clim.2019.108310