本研究の目的は反回神経麻痺モデル動物を用いて高濃度脂肪組織由来再生細胞(ADRCs)含有自家脂肪が、声帯注入後の体積維持に効果をもつのかを統計学的に検討することであった。実験の基本となる動物の反回神経麻痺モデルの確立、喉頭展開のための手術器具作成を行った。ウサギの喉頭展開用に特注で金属製の喉頭直達鏡を作成した。また声帯への注射針を選定し、刺入する手技を確立できた。その後、脂肪吸引による自家脂肪採取の手技確立にとりかかったが、モデル動物の薄い皮下脂肪からの採取は困難であり、皮下脂肪体を外科的に切離してから注入できるように加工する工夫が必要となった。この時点で、吸引脂肪からADRCsを分離するための機器を使用することが困難となり、ウサギで研究を継続する困難性を認め、モデル動物を、切除脂肪からADRCs分離が確立しているラットへと変更する大幅な計画の見直しを要した。その後、ラットの喉頭直達鏡の作成、声帯への注入手技の確立、反回神経麻痺モデルの作成、皮下脂肪採取の手技確立に成功した。経口的に硬性内視鏡明視下に声帯注入手術を行う手技を確立することにも成功した。声帯注入を各種の針で実験した結果、小動物の声帯内への注入には26Gよりも細いものでなければ針のカット面が声帯を容易に貫通して声帯内に注入物を留められないことがわかった。採取した脂肪組織を細切し細径針で注入するために様々な方法を試験したが脂肪体の結合組織に阻まれてどうしても18Gの太径針でないと通過しないことがわかった。小動物モデルにおける声帯内への脂肪注入は断念せざるを得ず、注入臓器を声帯から舌へと変更することとした。細切脂肪組織を注入1日後に舌に残存したのはオイル化した脂肪のみであり、脂肪細胞の生着はなかった。そこでメッシュ上で細切脂肪を洗浄しオイルを除去してから注入すると1日後に脂肪細胞が舌内に移植できていることがわかった。
|