研究実績の概要 |
先天性高度難聴の発症率は1,000人に1人の割合であり、その約半数は遺伝子の関与があるといわれている。原因となる遺伝子産物の1つであるBrn4はニューロンや、蝸牛細胞の分化に関わる転写因子でありX染色体性の非症候性難聴では最多の疾患であるX-linked deafness type3(DFN3)の原因遺伝子として知られているが、その機序は未だ不明な点が多かった。研究代表者城所淑信はBrn4欠損マウスと先天性難聴で最も高頻度であるCX26(GJB2)変異難聴の間に「ギャップ結合複合体崩壊」という共通の分子病態を持つことを初めて発見した(Kidokoro et al. PLoS One 2014)。これによりギャップ結合を標的とした治療法開発が同疾患にも適用できると予想される。以前の当グループの報告では初期の細胞変性がギャップ結合複合体を形成する蝸牛線維細胞である(Minowa, Science, 1999)ことが明らかとなっており、本研究では蝸牛線維細胞およびそのギャップ結合を指標としたBrn4欠損マウス内耳への骨髄間葉系幹細胞移植の最適条件を探索し、Brn4変異型難聴の細胞治療法を開発する。 本年度は多能性幹細胞から内耳細胞への分化機構の解明のため、ES細胞から内耳用細胞への分化誘導法の検討を行い、TGFbeta阻害剤とBMP4による薬剤添加処理の調節で効率的にConnexin26分子を発現させる方法を開発した。また、マウス内耳への細胞治療実験のための細胞液投与法の検討を行い高効率の蝸牛内への投与手技を確立した。
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