研究実績の概要 |
本研究は、先天性疾患の中で最も高頻度で重篤な疾患のひとつである先天性内耳性難聴を胎生期に検出するための非侵襲性聴力検査機器を開発し、胎児聴力検査法を確立することを目的とし行った。我々は、胎児環境に適した音響刺激装置の開発、音響刺激による胎児脳電位反応、心拍変化に基づいた胎児聴力検査法についてすでに研究し、論文報告している (Matsuoka et al.,Int J Pediatr Otorhinolaryngol 2017)。 本研究では我々が既に報告した胎児音刺激装置を用いて2000 Hz、90 dB、5秒の純音で母体の腹部から音刺激を行い、音刺激前後の心拍数変化を分娩監視装置を用いて測定した。その結果、正常聴力の胎児では音刺激による心拍数上昇は妊娠20週目から認め、妊娠28~37週では妊娠20~27週に比べて有意に音刺激後の心拍数の上昇率が高いことが明らかとなった。妊娠28週以降に無反応であった胎児は全て音刺激前の胎児心拍数変化から胎児が静睡眠状態であると考えられ、音への反応性が低下していた。妊婦の体格指数や喫煙歴、アルコール歴、母体年齢、胎児性別、婦人科手術歴といった因子は胎児聴覚検査の反応性に関連がないことも明らかになった。 聴覚成熟の観点から胎児聴覚検査は妊娠28週以降で有効であり、胎児は静睡眠状態では刺激への反応性が低下しているため、心拍数変化による胎児聴覚検査時には胎児睡眠サイクルを考慮に入れる必要があると論文報告した。(Motegi, Matsuoka et al.,Int J Pediatr Otorhinolaryngol 2020)。 本成果を基盤として、胎児期や出生直後での遺伝子治療など難聴の根治治療に繋げる。
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