頭頸部がんは、咽頭・喉頭等に発生し、扁平上皮がんが大部分を占める。手術不能症例や再発例は予後不良であり、新たな治療戦略が必要である。頭頸部がん組織においてがん部で過剰発現し、特に浸潤部の先端で強い発現が認められたS100A10は悪性化を制御している可能性が高い。そこで 増殖・浸潤におけるS100A10の役割と意義は?がん幹細胞性を誘導するか?細胞分裂を制御するか? S100A10 は頭頸部がんに対する新規標的薬になるか? を目的に解析を行う。S100A10ノックアウト(S100A10 KO)細胞株を樹立し機能解析を行った結果、S100A10 KOは野生型細胞(WT)と比較して明らかに細胞増殖能が抑制された。また、ヌードマウスを用いたin vivo移植系での造腫瘍能を調べた結果、S100A10 KO細胞株を移植したマウスからは腫瘍形成はほとんど認められなかった。さらにS100A10 KO状況下における運動能・浸潤能低下は、S100A10 KO細胞で認められたアクチン細胞骨格異常と関連があると考えられた。細胞内でのS100A10は浸潤突起に局在しており、その部位での細胞外基質分解酵素MT1-MMPや浸潤突起形成関連たんぱく質であるCortactinやRac3との共局在が観察された。 S100A10によるがん幹細胞性誘導の解析において、S100A10 KO細胞はWT細胞と比較してスフェア形成能が減少し、がん幹細胞性の多剤耐性に関与するABCトランスポーターABCG2とABCC2のmRNA発現も明らかに減少した。以上の結果から、S100A10は細胞増殖・浸潤促進に重要な役割を果たしていること、がん幹細胞性を誘導する特性を持つことが明らかになった。
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