ヒト/マウスの難聴原因遺伝子であるミオシン6(Myo6)には複数のアイソフォームが存在する。そのうちの1つである内耳有毛細胞で高発現する9塩基のマイクロエクソン(miExon)が挿入されたMyo6アイソフォームは不動毛形成に関与する必須のアイソフォームであり、特に、外有毛細胞の発生に重要な役割を持つことが強く示唆された。本年度は、前年度に引き続き、Myo6-miExon欠失マウスの聴覚表現型、および有毛細胞におけるマーカー解析を実施した。 Myo6-miExon欠失マウスの聴性脳幹反応(ABR)波形は野生型と比較して振幅の低下および潜時の遅延が認められたが、歪成分耳音響放射(DPOAE)が検出されていなかった。本年度は、聴覚表現型を明確にするためDPOAEの閾値を調査した。その結果、Myo6-miExon欠失マウスは外有毛細胞の欠失および不動毛形態の異常を生じるにも関わらず、高音圧の音刺激に対する反応が得られ、外有毛細胞機能をわずかに有することが判明した。 次に、前年度の線毛マーカーに加え、本年度は他部位のマーカーを用いた免疫組織染色を行った。不動毛の根部マーカーは、不動毛の配向異常が生じたMyo6-miExon欠失マウスでも野生型と同様に根部特異的な局在を示した。さらに不動毛基底部におけるtaper領域のマーカーの局在も野生型同様であり、走査型電子顕微鏡のデータをサポートするデータを得た。一方で、平面内極性を制御するPCP(planar cell polarity)に関与するマーカーにおいて、Myo6-miExon欠失マウスの生後初期で認められるMyo6の局在異常と類似した発現パターンを示唆するデータが外有毛細胞で認められ、miExon が挿入されたMyo6アイソフォームは、外有毛細胞における不動毛の位置決めに関する特徴的な役割を持つことが示唆された。
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