研究実績の概要 |
胎盤成長因子(placental growth factor, PlGF)は血管新生や血管形成に関与する血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor, VEGF)ファミリーの一員である。近年、VEGFファミリー分子の持つ組織保護作用について認識が深まりつつあるが、PlGFの生理的作用は未だ不明である。本研究の目的は、網膜の恒常性維持に重要な働きをする網膜色素上皮細胞(retinal pigment epithelium, RPE)、およびその周囲組織に対するPlGFの生理的役割を調べることである。 昨年度までに、RPEにおいてPlGFがVEGF受容体(VEGFR)-2蛋白を安定化し、VEGFによる細胞保護効果を支える働きを有することがわかっている。またその機序として、PlGFがリソソームやプロテアソーム系などの分解機構への蛋白輸送に重要なユビキチン化を制御する分子であるglycogen synthase kinase 3 (GSK3)の活性を抑制することで、VEGFR-2蛋白の分解を抑えるメカニズムの存在が明らかになった。本年度の研究により、PlGF発現を抑制したRPE細胞にPlGFを添加するとAKTのリン酸化が亢進して活性化し、AKT阻害剤であるLY294002を添加すると、PlGFによるGSK3活性の抑制がみられなくなる結果が得られた。これらのことより、PlGFはAKTの活性化を介してGSK3活性を抑制することが示された。本研究により、PlGFによるVEGFR-2安定化にはAKTを介したGSK3活性の抑制が関与することが明らかになり、PlGFによるVEGFR-2安定化を介したRPE細胞保護の分子メカニズムが新たに示された。
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