研究実績の概要 |
角膜上皮幹細胞疲弊症では幹細胞疲弊に伴う結膜および血管侵入に加えて眼表面上皮の分化異常が生じる。その結果、正常上皮が角化(皮膚化)して高度の角膜混濁をきたし、著明な視力低下を引き起こす。以前に6つのコア転写因子(PAX6, OVOL2, KLF4, SOX9, TP63, MYC)を用いて皮膚線維芽細胞から角膜上皮細胞へのダイレクトリプログラミングに成功し、コア転写因子が角膜上皮の正常分化を制御することを報告した。本研究では、角膜上皮のコア転写因子の相互作用機序を解明しさらに低分子化合物を用いて角膜上皮細胞へのダイレクトリプログラミングを可能とする薬剤を探索することを目的とした。PAX6とKLF4を同時にCRIPSR/Cas9でノックアウトしたヒト角膜上皮細胞を作成した。PAX6単独のノックアウトでは、角膜上皮関連遺伝子あるケラチン1およびケラチン10の発現が上昇したのに対し、PAX6およびKLF4同時のノックアウトではこれらの発現がすべて低下した。つまり、KLF4がPAX6の上流にあり、ケラチンを含む角膜上皮関連遺伝子の発現を広く制御していることを示唆する。次に、角膜上皮細胞と病的上皮のモデルである表皮角化細胞、およびPAX6ノックアウトおよびKLF4ノックアウト角膜上皮細胞のマイクロアレイデータを解析し候補薬剤を選択した。CMapを用いた解析で、角膜上皮細胞で高発現している遺伝子を増強させる低分子化合物を8877選択した。そのうち、Scoreが90以上となり角膜上皮細胞で高発現となる候補低分子化合物を13種類、一方で、Scoreが-90以下となり角膜上皮細胞で低発現となる候補低分子化合物を48種類選択した。これらの候補薬剤の種類、タイミングを変えて角化上皮細胞および皮膚繊維芽細胞に投与したが、結果的には薬剤のみで角膜上皮細胞へリプログラミングできる薬剤は認めなかった。
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