角膜移植後の急性拒絶反応に対して、ステロイドやタクロリムスなどの免疫抑制剤を中心とした治療が行われているが、感染症、自己免疫性疾患の合併、再移植などで血管新生を生じたハイリスク症例では未だにその40-90%に高い拒絶反応を伴う。制御性T細胞は免疫抑制的に働き、副作用なく角膜移植片に免疫寛容を成立させることができると期待されているが、ヒト生体内での制御性T細胞の増幅は難しく、有効な体外増幅法の開発が必要である。 これまでに当大学では、ヒト腎・肝移植にて抗CD80/86抗体で誘導・培養した制御性T細胞による新規免疫寛容誘導療法の可能性を明らかにしてきた。しかし、局所環境である角膜移植片において炎症や血管新生が惹起された高リスク症例に対して、体外で培養した制御性 T細胞が生体内と同等の作用を発揮するかについては不明である。 そこで、本研究では血管新生を誘導したマウス高リスク角膜移植モデルを作成し、抗CD80/86抗体で誘導・培養した制御性T細胞の角膜移植片に対する免疫抑制効果の機序を検証し、ヒト角膜移植における新規免疫寛容誘導療法開発に向けた一助とする。 2018年度は、角膜移植のレシピエントに用いるBALBcマウスのFoxp3ノックインマウスの繁殖を行った。このFoxp3ノックインマウスを用い、角膜血管新生マウスモデルを作成した。2019年度は、抗CD80/86抗体を角膜血管新生マウスモデルに投与したところ、角膜移植片の生存の延長を認めた。また、混合リンパ球刺激試験(MLR)では、抗CD80/86抗体投与にてT細胞の増殖抑制、炎症性サイトカインの発現の低下を認めた。2020年度は体外から移入した制御性T細胞の角膜移植片への移行性の確認を実施した。BrdU試験にて、抗CD80/86抗体の制御性T細胞の免疫抑制能の保持を明らかにした。また、MLRにおける抗CD80/86抗体投与ではCFSE染色によるT細胞増殖抑制効果を明らかにした。
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