これまで我々は家兎アカントアメーバ角膜炎モデルから、アカントアメーバ角膜炎の発症メカニズムに関する研究を行ってきた。アカントアメーバ角膜炎の発症には、菌の共存が必須であり、アカントアメーバ単独では角膜に感染成立しない事、また共存する菌の菌量が、発症する角膜炎の重症度に影響する事、これらがこれまでの研究結果から得られている。 今回、我々は局所性のステロイド投与(ステロイド点眼)に着目した。これまでステロイド点眼は臨床研究においては賛否が分かれる結果が報告されており、ステロイド点眼がアカントアメーバ角膜炎に直接的にどういった影響を及ぼすかのメカニズムに関しては未だ報告がない。今回我々は、家兎アカントアメーバ角膜炎モデルに対してステロイド点眼を施し、実験的に検証した。 低濃度の菌と共存させたアカントアメーバを角膜に接種し、直後よりステロイド点眼を施した群では角膜炎の発症は見られなかった。一方、同条件で接種後から12時間後にステロイド点眼を施した群では中等度の角膜炎の発症が見られた。この事から、角膜炎の感染成立後からのステロイド点眼投与は、アカントアメーバ角膜炎発症に増悪因子として影響を及ぼす事が示唆された。また高濃度の菌と共存させたアカントアメーバを角膜に接種し、直後よりステロイド点眼を施した群では重篤な角膜炎が見られ、ステロイド非投与群と比較すると優位な角膜スコアの差が確認できた。また病理像において、ステロイド投与群で見られた重篤な角膜炎の検体からは、角膜内のアカントアメーバシストが脱シスト化している病像が確認できた。よって本研究から、充分な菌量と共存したアカントアメーバはステロイド投与によって重篤な角膜炎を発症させる事、その要因としてはステロイドが角膜内のアカントアメーバシストを脱シスト化させる作用をきたす事で生じさせている事が示唆された。
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