研究課題
重症網膜疾患に起因する重度視覚障害は生活の質に直結する重篤な症状を呈し、改善必須の社会問題となって久しい。近年、分子細胞生物学の発展に伴い、重度視覚障害に関する治療導入が現実のものとなっているものの、先鋭的治療導入は実臨床に届いていない。その大きな要因が、治療の適応判断と効果判定に関する有用な評価法が存在しない事実が挙げられる。本研究の目的は、治療導入・展開が見込まれる重度視覚障害患者に対して、東京医療センター・臨床研究センター(NISO)、英国UCL Institute of Ophthalmology (UCL IoO)、Cambridge Research Systems (CRS)との密な連携下で最新の統合型LEDモニタ刺激技術を用いて刺激アルゴリズを構築する事で、従来の視力検査では定量的な測定が困難であった重度視覚障害患者群に対して、視野や病状・病態を加味した様々なパターンを用いた包括的・定量的評価系を確立し、その臨床応用を実践する事である。研究初年度では、東京医療センター、UCL IoO、CRSの協力体制の元、視覚刺激アルゴリズムが構築された。アルゴリズムを利用した検査の光覚閾値、運動認知閾値、空間解像閾値、コントラスト感度閾値を測定する為の視覚刺激が考案され、重度視覚障害における病状・病態を加味した評価プロトコルが構築された。構築されたプロトコルは次年度、重度視覚障害における視野や病状・病態を加味した仮想視覚障害モデルにおける検証が実施され、包括的・定量的評価系として確立される。
2: おおむね順調に進展している
本研究では3年の研究計画の中で3段階を経て重度視覚障害に対する包括的・定量的評価系を確立し、実臨床で実践される中で、その有用性が模索される。1:視覚刺激アルゴリズムの構築 (平成30年度)、2: 正常眼における検討、刺激アルゴリズム・検査プロトコルの確定(令和1年度)、3:重症網膜疾患における実践、有用性の評価(令和2年度)研究初年度では、本研究の対象となる重度視覚障害を呈する疾患について調査が行われた。最も頻度の高い網膜色素変性症を含む遺伝性網膜疾患については、重症度の指標となる形態学的変化と視機能との関連が新たに発見され、論文発表が行われた。Prediction of Causative Genes in Inherited Retinal Disorders from Spectral-domain Optical Coherent Tomography Utilizing Deep Learning Techniques (Journal of Ophthalmology in press)Clinical and Genetic Characteristics of East Asian Patients with Occult Macular Dystrophy (Miyake disease); EAOMD Report No.1 (Ophthalmology, in press)光覚閾値、運動認知閾値、空間解像閾値、コントラスト感度閾値を測定する為の視覚刺激アルゴリズムが構築された。光覚閾値の刺激強度を設定し、運動認知閾値、空間解像閾値、コントラスト感度閾値を統合する事により測定範囲を想定した視覚刺激アルゴリズムが作成され、各可変パラメターをリアルタイムに適合する事で、病状・病態を加味した統合的評価プロトコルの作成が完了した。
本研究では、視覚刺激アルゴリズムの正常眼における検討、刺激アルゴリズム・検査プロトコルの確定(次年度、令和1年度)、並びに重症網膜疾患における実践、有用性の評価(次々年度、令和2年度)を通して、重度視覚障害に対する包括的・定量的評価系を確立し、その臨床応用が実践される。次年度(令和1年度)では、本年度(平成30年度)に構築された光覚閾値、運動認知閾値、空間解像閾値、コントラスト感度閾値を測定可能とする視覚刺激アルゴリズム・統合的評価プロトコルを正常例20眼において検証する。仮想視覚障害モデル眼鏡を用いる事で、中心視機能障害、周辺視機能障害、中心周辺視機能障害等の視覚障害モデルに対する視覚刺激アルゴリズム・統合的評価プロトコルの有効性が検討される。これらの結果を踏まえて、臨床現場で実践可能な刺激アルゴリズム・検査プロトコルを確立する。特に、重症度視覚障害患者に関する従来の視力の4分類(指数弁、手動弁、光覚弁、無光覚)に対して、統合的評価プロトコルを用いた詳細な定量的評価数値の同定が行われ、この結果が実臨床における定量的評価の対照群として使用される。次々年度(令和2年度)では、重度視覚障害において最も頻度が高いといわれている網膜色素変性症をはじめとする重症網膜疾患を有する患者において包括的視機能評価が実践される。東京医療センターにて患者リクルートが行われ、次年度に構築された刺激アルゴリズム・検査プロトコルによる検査が実施される。結果の解析を通して、それぞれの重度視覚障害の病状・病態に対する刺激アルゴリズム・検査プロトコルの適応・有効性が同定される。
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Ophthalmology
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https://doi.org/10.1016/j.ophtha.2019.04.032