近年の高齢化社会で増加した加齢黄斑変性(age-related macular degeneration: AMD)は、眼球の中でも網膜の中心である黄斑部を不可逆的に障害し、視力に直接影響する疾患である。そのため失明原因として国内第4位、米国の第1位を占める。光受容体である網膜視細胞の中でも、周辺には視野の広がりを決める桿体(rod)視細胞が存在するのに対し、視力を決めるのは錐体(cone)視細胞であり、網膜黄斑部にはこれが集中して存在する。視力確保のためには黄斑部網膜視細胞、すなわち錐体視細胞に対する介入治療が必須である。しかし、現時点では治療法はない。さらに、マウスには黄斑が無く研究が進みにくい。そこで、本研究ではヒト細胞を用いて錐体視細胞の形成と維持のメカニズムを解明し、将来の世界初の新規網膜黄斑部治療の開発につなげることとした。そのために、ヒト人工多能性幹細胞(induced-pluripotent stem cell; iPS細胞)を用い、3次元培養により網膜組織(オルガノイド)を分化誘導し、網膜錐体視細胞を選択的に取り出して解析する研究を開始した。そして、ヒトiPS細胞の時点でゲノム編集を行い、錐体視細胞に分化誘導すると蛍光を発するiPS細胞を作製した。これを用いて3次元培養により網膜組織を作製したうえで細胞を分散させ、蛍光標識をガイダンスとしてフローサイトメトリーを用いて錐体視細胞を回収する実験系を立ち上げた。これにより、錐体視細胞の移植治療および保護治療の開発の基盤となるデータを得ることにつなげる基盤となった。
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