手術適応となる手指屈筋腱損傷は、生産年齢人口に多い比較的多い外傷であるため社会的損失が大きい問題がある。骨折や神経損傷等の合併損傷を伴う重症例では機能予後が悪化しがちだが、現在の治療体系はプラトー相に達しており改良が難しい。一方、腱修復過程の変化、遺伝子機能を含む分子生物学的メカニズムは未解明な点が多く、治療プロトコールのブレークスルーには分子生物学的アプローチと再生医療の融合が必要である。我々は、腱損傷治療過程を再現したマウスアキレス腱縫合モデルを作製、間葉系幹細胞(MSC)による再生効果を期待してMSCを豊富に含む間質血管細胞群(SVF)を移植し、効果解析を行ってきた。これまでに、異種移植においてもSVF移植後には機能的回復過程の迅速化と合併症の低減がみられ、さらに局所炎症や異所性軟骨形成が低減する予備的結果も得たが、メカニズム詳細は不明であった。このMSC移植後の、炎症や異所性軟骨形成の低減メカニズム解明を進めることを本研究の目的とした。研究方法は、上記マウス腱縫合モデルにヒトMSCを異種移植し、経時的に組織学的、分子生物学的解析を行い、抗炎症効果の視点からMSC移植効果を解明する計画を立てた。臨床応用の障壁低減のため、当初、移植用MSCとして造血幹細胞移植後ステロイド抵抗性急性GVHDに対し既に保険適応となっている他家骨髄由来MSC製剤である テムセルHS注を有力候補とした。しかし予定した細胞は供給が受けられず、株化ヒト脂肪由来幹細胞(ASC)の SCRC-4000や ASC を新たに移植候補細胞とした。平成30年度に移植候補細胞の培養~予備的移植実験を行った。
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