リンパ節郭清後の急性期、慢性期リンパ浮腫に対する外科的治療、いずれにおいても組織損傷からの治癒過程で組織の線維化が惹起され、筋線維芽細胞が増殖するにもかかわらず、リンパ鬱滞環境下での線維化並びに成熟リンパ管の新生障害の病態は解明されていない。リンパ流障害後の創傷治癒過程の解明と改善がリンパ浮腫の予防と新たな治療開発において重要である。 近年慢性炎症に引き続く線維化にCD69陽性炎症細胞と活性化された血小板から放出されるMyosin light chain(myl)9の結合が重要な役割を持つことが明らかになっている。初年度はCD69欠損マウスを用いて腹部リンパ流鬱滞モデルを作成し、線維化とリンパ管新生における通常マウスとの差異を検討し、結果としてCD69 欠損マウスにおいて有意にリンパ新生、線維化の形成が抑制を認めた。また、リンパ鬱滞部位に対する血管柄付きリンパ節移植によるリンパ新生の評価を行ない、血流がある方がリンパ節周囲の線維化が有意に少ない結果であった。 初年度を踏まえて、2年目ではまず急性炎症期におけるmyl9の血漿中濃度の経時的変化の測定を目的として、体表面の急性炎症を引き起こす熱傷症例でのデータ収集を行っている。3年目の本年度ではCD69欠損マウスにおいて、血管柄付きリンパ節移植の生着を検討したところ、明かな有意差は確認できなかった。現段階では、CD69ーmyl9に関連した炎症経路の抑制により、リンパ新生や線維化を阻害する可能性が示唆された。今後急性、慢性炎症でのmyl9の変化を理解することで、線維化予防を目的とした抗myl9抗体の作成につながると考えられる。
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