移植脂肪組織を測定するにあたり、浅下腹壁動静脈を栄養血管とする下腹部脂肪弁は術後にラットの噛みつき行動により、術後早期に移植脂肪組織が消失してしまうことが多く効率的に実験を進めることが困難であった。検討を重ねた結果、外側胸動静脈を栄養血管とした側胸部脂肪弁であると縫合創は背部になるため、術後にラットにより噛みつき行動で移植脂肪組織が消失することがなくなった。 7週齢のZucker fatty rat (メス)の外側胸動静脈を栄養血管とした側胸部脂肪弁を挙上し、外側胸動静脈を血管クリップを用いてクランプした後に外側胸動静脈に種々の薬剤(生理食塩水、アドレナリン、ヘパリン : 各々0.5cc)を投与し10分間虚血状態とし、虚血解除後に皮膚縫合をして手術操作を終了とした。薬剤投与を行わない側胸部脂肪弁のラットも同様の手術操作を行い、コントロール群とした。術後5週間、1週おきに移植脂肪組織容量をMicro focus CT装置(R-mCT2)を用いて計測を行なった。 コントロール群と各々の薬剤投与群の3週・5週時点での移植脂肪容積変化率を統計学的検討(Mann-Whitney U test)したところ3週目の時点での生理食塩水群で有意差を認めたが、その他は有意差を認めなかった。コントロール群と薬剤投与群の3週・5週時点での移植脂肪容積変化率を統計学的検討(Mann-Whitney U test)したところ、3週・5週ともに有意差を認め、コントロール群が移植脂肪容積が保たれる傾向があった。 今回の検討で、脂肪弁の栄養血管に薬剤を投与しない方が移植脂肪容積が保たれる可能性が示唆された。各々の薬剤の作用というよりも、薬剤投与という脂肪弁の栄養血管への作用が脂肪弁の毛細血管に対してストレス因子として影響し、毛細血管開存率減少・移植脂肪容積の維持に関与している可能性が考えられる。
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