昨年度までの研究により、in vitroにおける正常線維芽培養細胞を用いた創傷治癒アッセイにおいて、正常線維芽細胞由来のミトコンドリア移植が創傷治癒促進効果をもたらす可能性があること判明したが、その原因に関しては不明のままであった。 創傷治癒アッセイでは培養細胞の増殖能および遊走能をみていることから、培養細胞の増殖抑制剤を用いて解析した結果、ミトコンドリア移植後12時間までは創閉鎖の速度はコントロール群と等しいものの、それ以降はミトコンドリア移植群が有意に増加することが判明した。また、ミトコンドリア機能阻害薬を用いると、その速度は有意に減少した。 また別の角度から評価するため、創傷治癒アッセイ過程での遺伝子発現変動を増殖能(PCNA、Ki67)と遊走能(Rac1、RhoA)に関してrealtime PCRを行った。その結果、ミトコンドリア移植群では遊走能に関する遺伝子発現変動は認めず、むしろコントロール群よりも減少する結果となった。その反面、増殖能に関する遺伝子発現は24時間経過した時点で、コントロール群よりも2倍以上と有意に増加していたことを明らかにした。 以上のことから、in vitroでの創傷治癒モデルにおいて、ミトコンドリア移植は遊走能よりも増殖能を増加させることで創閉鎖の速度を増加させる可能性が示唆された。 糖尿病罹患患者由来線維芽細胞を用いたミトコンドリア移植の創傷治癒促進効果および、in vivoにおける研究は完遂出来ておらず、今後の研究課題として進めていく予定である。 これらの研究成果は、第19回日本再生医療学会、第50回日本創傷治癒学会、第12回創傷外科学会総会・学術集会、第29回日本形成外科学会基礎・学術集会の一般演題で発表を行った。なお、第12回創傷外科学会総会・学術集会では優秀一般演題として表彰された。
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