近年、マウスの筋肉・肺などの組織内にある末梢血管の血管内皮細胞中に幹細胞と内皮細胞の性質を併せ持つ特殊な細胞、血管内皮幹細胞が同定された。本細胞はCD31+CD45-中に存在し、2018年に共同研究者の内藤らは新たなマーカーとしてCD157を同定した。本血管内皮幹細胞は通常静止状態にあるが血管新生時には細胞分裂を始め、血管を構築するために必要な内皮細胞を大量に供給することができる。さらにマウス下肢虚血モデルにこの細胞の移植を行うと、長時間にわたって血流が維持される血管が構築され、血流も完全に回復することが示された。この血管内皮幹細胞はマウスでは下肢筋肉組織、皮膚組織、肺、肝臓を含め全身の血管に存在し、虚血時には活性化することが明らかとなっている。本研究ではヒト皮膚組織、筋組織、脂肪組織を用いて、ヒトにおける血管内皮幹細胞の存在を探索することを目的としている。2018年に順天堂医院倫理員会の承認のもとヒト組織から血管内皮幹細胞を分離検証する臨床研究を開始した。その結果、皮膚組織8サンプル中の6サンプルからの皮膚組織のside population (SP)中に 血管内皮幹細胞のマーカーであるCD31+CD45-CD157+細胞が存在することが明らかになった。ヒト組織においても本細胞が存在するという結果は世界初での発見である。令和元年度は、ヒト組織血管幹細胞の血管再生能をin vitroで検証した。本解析結果においてCD157陽性細胞の割合が大きく変動している事が認めらた。さらにはヒト皮膚組織の細胞分散法が十分確立していないため、効率よくCD157陽性細胞を含む、全内皮細胞が分離できていない可能性が考えられる。今後更なる分散法の最適化が必要であると考えられる。
|