研究課題/領域番号 |
18K17014
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
小野 岳人 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 助教 (40772471)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 運動器科学 / メカニカルストレス / 骨代謝 / 口腔機能 |
研究実績の概要 |
咀嚼機能の低下は筋量と顎骨の骨密度の両方を低下させ、 咀嚼機能の増強は筋量を増加させるとともに骨形態にも影響することが知られている。しかし、骨と筋の組織の量や強度の制御を同調させるメカニズムは不明である。咀嚼強化が顎口腔系に与える影響を解析するために新規咀嚼強化マウスモデルの作製に取り組んだ。硬度が通常飼料の3倍の高硬度飼料を作製しマウスに摂取させたところ、咀嚼運動の増加が認められた。この際、咀嚼筋の一つ咬筋の幅径が増大し大脳皮質運動野の活性化を認めた。以上のとおり、この新規高硬度試料を用いた咀嚼強化モデルが構築された。 咀嚼強化モデルマウスの顎骨をマイクロCTにて解析したところ、咀嚼力の強いヒトの場合と同様に、顎角部の突出、下顎枝の短縮、臼歯の舌側傾斜を認めた。また、このような変化は顎骨に生じる応力を緩和することが示唆された。顎角部の組織学的解析の結果、咬筋の腱付着部における骨芽細胞の増加と骨形成の亢進を認めた。さらに詳細な解析の結果、同部の骨細胞ではIGF-1の発現が上昇し、スクレロスチンの発現は低下していた。培養細胞を用いた検討により、骨細胞由来のIGF-1が腱由来細胞の骨芽細胞分化を促進することが明らかになった。以上より、咀嚼による力学負荷は顎骨の骨細胞におけるサイトカイン産生バランスを変化させることにより骨の形態を変化させ、負荷に適応していると考えられる。咀嚼強化モデルマウスの筋組織における遺伝子発現を解析したところ、IGF-1の受容体の発現上昇を認め、咬筋の肥大にIGF-1が関与することが示唆された。以上の研究成果をScientific Reports誌に報告した。 運動器構成細胞が力学刺激に応答して産生する因子を網羅的に解析するために、培養骨細胞および筋細胞の伸展培養系の確立に取り組んだ。前培養や伸展に際して剥離しない条件を絞り込み良好な結果が得られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は咀嚼強化モデルマウスの解析、伸展培養した運動器構成細胞の解析を通じて力学刺激応答性の運動器制御因子を解明することを目的としている。本年度は咀嚼強化モデルマウスを確立できた。解析の結果、高硬度試料を摂取することにより咀嚼筋顎骨は力学負荷により生じた応力を緩和するように形態が変化した。分子メカニズムの検討により、咀嚼強化によって顎骨骨細胞でIGF-1の産生が上昇することが見出された。また、咬筋におけるIGF-1シグナルの増強を示唆する所見が得られた。以上より、IGF-1が本研究で同定を試みている力学刺激下で骨と筋の組織量や強度を同調させる因子の一つである可能性が示された。 運動器構成細胞の伸展培養を行うため、細胞が伸展用のチャンバーから剥離しない条件の検討を行った。チャンバーのコーティング材料、前培養の期間、伸展率、伸展期間などを検討し、良好な結果を得ている。培養骨細胞を伸展し、遺伝子発現を検討したところ、IGF-1遺伝子の発現が上昇しており、in vivoの結果との一致が見られた。したがって、今後この伸展培養系を用いた遺伝子発現の網羅的解析の実施が可能となる。 以上より、進捗状況は概ね順調であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
In vivoの検討として、確立した新規咀嚼強化モデルマウスの咬筋や顎骨における遺伝子発現解析を行う。また、in vitroの検討として、培養骨細胞や培養筋細胞の伸展培養を行い、遺伝子発現解析を行う。これらの解析を通じて、IGF-1以外の骨と筋の組織量や強度を同調させる因子を探索する。未知の制御因子を探索するために、必要に応じて網羅的解析を行い候補因子を選抜する。候補因子の絞り込みが困難である場合は、トレッドミルや尾部懸垂による全身運動の増加/低下モデルにおける遺伝子発現プロファイルや公共のデータベースなどを利用して候補を絞る。 選抜された候補因子が骨や筋の制御にどのように関わるかを明らかにするために、培養細胞における候補因子のノックダウンや過剰発現、阻害剤の添加を行う。同様に、in vivoでも候補因子のノックアウトや阻害剤の投与を行い、候補因子の機能を生体レベルで検討する。 以上により、咀嚼による力学刺激下で骨と筋の組織の量や強度の制御を同調させるメカニズムを細胞および分子レベルで明らかにする。
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