RNA結合タンパクであるHuRは多くのがん細胞で過剰発現しており、その悪性形質に関わっている。このHuRと特異的に結合し、その機能を阻害する薬剤はがんの進行を抑制すると考えられる。この薬剤を開発するため、1570種類の承認薬ライブラリーに対して、示差走査蛍光定量法と表面プラズモン共鳴を用いて検索した結果、8種類のヒットターゲットを見出した。その1つ、suraminは抗トリパノソーマ薬として、現在も使用されている薬剤で、FDAにも認可されている。Suraminが実際にHuRのmRNAの安定化を阻害し、細胞増殖や細胞浸潤を減弱させることを証明し、2018年12月にCancer Medicine誌に投稿した(Kakuguchi W et al.)。さらにsuraminの抗腫瘍効果を確認するため、suraminを作用させた舌がん細胞とコントロール細胞に対してRNAシーケンスを行ない、どのmRNAの発現が低下しているかを検索した。その結果、細胞増殖や細胞分裂に関わるmRNAが顕著に低下していることがわかった。この結果、suraminは細胞周期にかかわるmRNAをHuRを阻害することによって分解に導き、細胞分裂を阻害し、増殖を低下させることがわかった。次に、in vivoでのsuraminの効果を確認するため、BALB/cAJcl nu/nuの舌にHSC-3 Lucを同所移植し、suraminを投与した群とコントロール群の腫瘍の増大をIVISを用いて計測した。suraminを投与した群では、腫瘍細胞の増大はコントロールよりも抑制されており、suraminは舌がん細胞の増殖をin vivoにおいても抑制することを証明した。今後、サンプル数を増やし、検討することでsuraminが舌がん細胞の増殖を抑制し、進行を妨げることを証明できるのではないかと思われた。
|