インフルエンザは急性の呼吸器感染症であるが,特に高齢者では,肺炎球菌性肺炎の合併による死亡者の増加が社会的問題になっている.インフルエンザに続発する細菌性肺炎の発症を助長する因子として,ウイルス感染による宿主の細菌感染感受性の亢進が挙げられてきた.しかし,病因論に基づく有効な予防・治療法は確立されていない.本研究では,A型インフルエンザウイルス (IAV) 感染がもたらす気道におけるストレス応答分子群の表在化に着目し,ウイルス感染肺組織への細菌の定着ならびに病態形成との関連を解明するとともに,新規感染制御法の確立に向けた標的分子としての有効性を検証した. ヒト肺胞上皮細胞株にIAV A/FM/1/47株 (H1N1) を感染させ,感染により発現量が変化する分子群を質量分析により同定した.その結果,GP96の表在化に伴い,インテグリンαVの宿主細胞表層での検出量が増加した.そこで,IAV感染細胞に肺炎球菌 D39株 (血清型2型) を感染させ,感染2時間後における菌体付着量を検討した.IAV感染細胞への菌体付着量はウイルス非感染細胞と比較して有意に増加したが,GP96阻害剤,抗GP96抗体,抗インテグリンαV抗体,およびRGDペプチドの添加により非感染細胞への付着量と同等レベルまで減少した.また,ウイルス感染細胞におけるインテグリンαVの細胞表層での検出量は,GP96阻害剤処理により低下した. 以上の結果から,二次的に感染する肺炎球菌は,IAV感染により表在化したGP96およびGP96のシャペロン機能依存的に表層での発現量が増加したインテグリンαVをレセプターとして宿主細胞に定着することが示唆された.
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