研究課題/領域番号 |
18K17030
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
上原 佳里奈 琉球大学, 医学部, 助教 (30782594)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | HPV / PARP / 口腔癌 / 治療感受性 |
研究実績の概要 |
HPV陽性口腔癌は放射線や化学療法に対する反応性が良く予後良好である。しかし、high-risk HPV陽性口腔癌とlow-risk HPV陽性口腔癌を比較すると、逆説的なことにlow-risk HPV感染の方が予後不良である。HPV型によってなぜ予後が異なるのか、その違いは不明である。 申請者はhigh-risk HPV遺伝子発現細胞株においてlow-risk HPV遺伝子発現株よりも、ポリADPリボースポリメラーゼ (PARP) 発現量が高く、PARPによる著しいポリADPリボシル化を確認している。過剰なポリADPリボシル化は容易にアポトーシスを誘導することが知られており、HPV型によるPARP活性の違いが口腔癌の治療感受性と関連することが予想される。本研究では、HPV感染によるPARP活性化と治療感受性の関連を明らかにし、得られた知見を基に臨床応用への基盤を形成する。 今年度は、口腔癌の病理組織標本から抽出したDNAを用いてHPV感染の有無とHPV型を特定し、HPV感染群とHPV非感染群でDNA damageおよびPARP発現を比較した。沖縄県の口腔癌症例の約70%(108/146例)でHPV感染が確認でき、そのうちhigh-risk HPV感染が96例(88.9%)、low-risk HPV感染が6例(5.6%)、high-risk HPVとlow-risk HPVの重感染が6例(5.6%)であった。HPV感染群とHPV非感染群でDNA damageの程度に差は無く、Stage I~II症例のHPV感染群、特にhigh-risk HPV感染群で有意に高いPARP発現が確認できた。HPV感染によるPARP発現の上昇が、治療感受性と関連する可能性が示唆される。 今後は、PARP発現の治療感受性への影響を明らかにするため、培養細胞を用いたin vitroの解析を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、口腔扁平上皮癌の病理組織標本からDNAを抽出し、HPV感染の有無、HPV感染型の特定を行った。Stage I からStage IVの計146症例の解析が終了している。Stage I~Stage IIの症例では、HPV感染群およびHPV非感染群間でDNA damageの程度は同様だが、HPV陽性症例でPARPの発現が有意に高いことが分かった。Stage III~Stage IVの症例では、HPV感染群とHPV非感染群間でDNA damageおよびPARP発現の差は見られなかったが、HPV感染症例で5年生存率が高いことが分かった。これより、HPV感染によるPARP活性化および、PARP発現と治療感受性の関連が示唆される。今後症例数を増やし、さらなる解析を進めていくとともに、培養細胞を用いたHPV感染とPARP発現の関連について検討を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
現在まで、病理組織標本を用いた疫学的研究を行い、HPV感染とPARP発現の関連を明らかにした。今後は、HPV陽性口腔癌におけるPARP活性の治療感受性への影響を明らかにし、PARP阻害剤を用いた口腔癌の新たな治療戦略を検討するため、口腔癌細胞株や口腔癌細胞株接種マウスを用いて、以下の検討を行う。 <実験① 培養細胞を用いたPARP活性と治療感受性の関連> HPV感染によるPARP活性化と治療感受性を検討するため、HPV陽性口腔扁平上皮癌細胞株とHPV陰性口腔扁平上皮癌細胞株および、HPV陰性口腔癌細胞にhigh-risk HPV E6/E7やlow-risk HPV E6/E7を導入した細胞株を用いて以下の実験を行う。PARP発現量とポリADPリボシル化、PARPの酵素活性を各細胞株間で比較し、HPV感染とPARP活性化の関連を明らかにする。また、抗癌剤に対する反応性の違いを比較し、PARP活性の治療感受性への影響について検討する。さらに、PARP阻害剤と抗癌剤併用時による各細胞株の生存率も検討し、PARP阻害剤による治療反応性の変化を比較する。 <実験② マウスを用いたPARP阻害剤と抗癌剤併用の効果> 実験①で用いた各細胞株をヌードマウスに接種し、腫瘍を形成させる。腫瘍形成後に、PARP阻害剤およびシスプラチンを投与し、治療反応性をin vivoで評価する。腫瘍を摘出し、病理学的検討により化学療法効果を判定するとともに、腫瘍の一部を用いてHPVの遺伝子発現、PARP活性を生化学的に検討する。
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