2022年度は、これまでに得られた結果の再解析と論文執筆を行った。 本研究は、口腔癌の発症に関与する歯周病原菌を同定し、その関与を実験的に証明することを目的として行った。 まず、口腔粘膜疾患の有無と歯周病進行度の関連を明らかにするため、口腔粘膜疾患のない患者112名(対照群)、口腔潜在的悪性疾患患者36名(OPMD群)、口腔扁平上皮癌患者104名(OSCC群)に対して歯周組織検査を行った。検査の結果、疾病群(OPMD群、OSCC群)では、対照群と比較して歯周病が進行していた。 次に、各群に特徴的な口腔内細菌を調査するため、患者洗口液から抽出したDNAを用いて、endpoint PCRと16S rRNA菌叢解析を行った。PCRの結果、OSCC群では、他の2群と比較してPorphyromonas gingivalis(P. gingivalis)、Aggregatibacter actinomycetemcomitans、Treponema denticolaを有する患者の割合が高かった。また、菌叢解析の結果、菌叢の構成菌種とそれらの存在比率が3群間で異なることが示唆された。各2群間における口腔内細菌の相対存在比率を解析した結果、疾病群では、対照群と比較してPrevotella intermedia、Filifactor alocis(F. alocis)、Parvimonas属菌の存在比率が高く、Veillonella属菌、Oribacterium属菌の存在比率が低かった。 さらに、歯周組織検査で得られた臨床パラメータと各菌種の存在比率の関係性について解析した結果、OSCC群では、歯周病の重症度に関わらず、P. gingivalisとF. alocisの存在比率が高かった。 これらの結果から、特定の口腔内細菌の存在とその存在比率の偏りが、口腔粘膜疾患の誘因となる可能性が示唆された。
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